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会員番号4番 お水送り

 あ、こんにちは。このたび「福音のマーメイド」の新メンバーとなりました、お水送りです。よろしくお願いします。
 福マメには個性的なメンバーが多いですけど、今回ついに人間どころか物質ですらなくなりましたね。行事ですからね、私。宣材写真に何が使われてるのか、我ながら興味あるんですけど。ほんと、このグループはどこに向かってるんでしょうかね。

 ま、細かいことはおいといて、私、お水送りの自己紹介をさせてください。
 私はですね、毎年3月2日に、福井県小浜市の神宮寺というお寺で行われる、若狭に春を呼ぶ神事として地元では有名な行事です。小浜市ってご存知ですよね? あのアメリカ前大統領にあやかって悪ノリしたところ。あそこにあるお寺です。

 この行事は、十日後の3月12日に、奈良県の東大寺二月堂で行われる「お水取り」という行事に先立って行われるものです。多分、こっちの方が関西のみならず全国的にも有名な行事かもしれませんけどね。この二つの行事は対になってます。要は、コールアンドレスポンスですね。小浜で「セイホーオ!」っつったら十日後に奈良で「ホーオ!」って言う感じ。あれです。

 私としては、お水取りの方がはるかに有名なことがちょっとだけ不愉快なんですけど。こっちが送ったから取れるんだよ、っつー話なんですけどねー。ま、怒ってもしょうがないんですけど。

 さて、この行事の始まりについて解説しましょうかね。時代は八世紀にまで遡るんですけど。
 この神宮寺が建立された際に、|遠敷明神《おにゅうみょうじん》という神様が祀られることになりまして。
 で、それからしばらく後に東大寺二月堂が建立された時に、|修二会《しゅにえ》が開かれまして、全国の神々が招集されたんですけど。修二会ってのは、まー、反省会みたいなもんですかね。
 ところがですよ。遠敷明神さん、魚釣りに夢中になって出席するのを忘れてたんですよ。うわやっべー、つって慌てて行ったんですけどみんな怒ってて。しょうがないので、若狭の綺麗な水を取り寄せるからこれで勘弁してね、っつって二月堂のところの岩を叩いたらホントに湧き出してきたんですって。その場所は後に「|若狭井《わかさい》」と名付けらた、という話なんですけど。遅刻のお詫びに地下水脈を繋げちゃうとか、なかなかスケールがデカイというか、最適なお詫びが果たしてそれだったのかという疑問もなくはないですけど。

 それから、お水送りとお水取りの行事は、1200年以上もの間絶えず引き継がれてきました。
 まず、神宮寺で汲まれた私のお香水が、2キロメートルほど上流の「鵜の瀬」というところまで運ばれます。それから、荘厳な雰囲気の中、大勢の人に見られながら、私のお香水が遠敷川に注がれます。
 この私のお香水が、十日かかって奈良まで辿り着き、若狭井から私のお香水が溢れ出します。その日は皆が私のお香水に注目するんですよ。そんなに見られるともっと溢れ出しちゃったりして。……あ、ごめんなさい、ふざけてないです。仏罰食らわせないでください。ごめんなさい。

 ところで。さっきグーグルマップで計測したんですけどね。神宮寺と東大寺二月堂の間の距離って、国道367号経由で111キロメートルなんですよね。これ計算すると、時速460メートルくらいなんですよ。なんか、遅刻のお詫びにしては意外と悠長な感じもしなくもないですけど。歩いた方が明らかに早いんですけどね。
 ま、そんな水を差すようなことは言っちゃいけませんね。お水送りだけに。

 さて、もうそろそろお時間ですか。一応私、真面目に話したつもりですので、関係者の方々怒らないでくださいね。どうか水に流してください。お水送りだけに。

 さて、福井発ローカルアイドル「福音のマーメイド」ですけど。この行事のように千年、二千年と続けるくらいの意気込みでガンバっていきたいですね。
 以上、「福音のマーメイド」の1期メンバー、水も滴るいい女ことお水送りでした。今後も福マメの応援、末長くよろしくお願いしますね。