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会員番号9番 九十九橋

 みなさん、こんにちは。このたび「福音のマーメイド」の新メンバーとなりました、|九十九橋《つくもばし》です。よろしくお願いしますね。
 福マメ初の橋メンバーということなんでね、期待に添えるよう頑張りたいと思います。このチャンスに|賭《か》けてますからね、わたし。橋だけにね。

 えー、わたしはですね、福井市を流れる|足羽川《あすわがわ》に架かる、全長144メートルの橋なんです。明日に架ける橋ならぬ、足羽川に架ける橋。
 足羽川と言えば、桜の名所として有名ですよね。なんせ日本一の桜並木を自称してますからね。まあ、長さも本数も日本一じゃないんですけど、ほんとは。でもこういうのはね、言ったもん勝ちみたいなもんなので、いいんじゃないでしょうかね。そこはさらっと流しましょうね。川だけに。
 それはさておき、わたしの上からは見事な桜並木を眺めることができるんですよ。毎年特等席から見てますけど、もうすっごいキレイですよー。お花見のシーズンなんか、みんなわたしの上に乗っちゃって。もう|組《く》んず|解《ほぐ》れつですよ、ええ。

 さて、わたしなんですが、年齢の事言うのはちょっとアレなんですけど、けっこう古い歴史があるんです。今の姿になったのは1986年(昭和61年)なんですけど、原型は戦国時代にまで遡ります。この頃のわたしは北国街道――今でいう北陸道の一部で、足羽川に架かる橋はわたししか居なかったので、歴史上の有名人達もみんなわたしの上を渡ったんですよ。下から見てたんだから間違いない。

 ところでわたし、当時から変わった構造の橋として有名だったんです。なんと半石半木だったんですよ。半石半木アイドル。不思議キャラの元祖みたいなもんですね。つまり、わたしの北半分が木で出来てて、南半分が石で出来てたんです。で、こんな構造で作らせた人……いわゆるわたしのパパが、あの戦国武将の柴田勝家さんだと言われてます。……自分のことなのに『言われてます』なんてヘンな話なんですけど。なんせ昔のことなので忘れちゃった。ごめんね。てへ。
 で、なんでこんな構造になったのかは諸説あるんですけどねー。敵が攻めてきた時の為にお城に近い方を壊しやすくしたとか、北岸には木工職人、南岸には石工職人が多かったのでそれぞれ得意なやり方で作ったからとか、いろいろ言われてます。
 それから300年以上に渡って半石半木キャラを守ってきたんですけど、1909年(明治42年)に全部木造として架け替えられ、それから昭和に入って鉄筋コンクリート製として生まれ変わり、そして1986年に今の姿になりました。長い時間をかけてちょっとずつ進化してるんですよ、わたし。
 ちなみに、近くの柴田神社では、わたしが半石半木キャラだった頃の姿が復元されてるんですよ。ぜひ一度渡ってみてください。

 あと……あんまり大きな声では言いたくないんですが、わたしの近辺って幽霊が出るってウワサがあるんですよー。なんでも、首なし武者の亡霊が出るとか。……しかも、その首なし武者の正体が、どうやら勝家パパらしいんですよ。
 なんか、心配して出てきてくれるのは嬉しいんですけど、ちょっと複雑ですよねー。わたし、そんな恐怖スポットじゃないですよう。橋架スポットではありますけど。だからみなさん、安心してわたしに会いに来てくださいね。

 さて、近年になって、わたし以外にも足羽川に架かる橋が次々と生まれました。そんな後輩達を何人か紹介しますね。
 まず、わたしのすぐ下流側に架かるのが|花月《かげつ》橋ちゃん、上流側に架かるのが桜橋ちゃんです。どちらも片側一車線のこじんまりとした橋なんですけど、風情があってなかなか素敵ですよ。
 それから、さらに上流側に架かるのが幸《さいわい》橋ちゃん。県道28号線、通称フェニックス通りが5車線の車道、それに福井鉄道福武線の線路が走っていて、今ではわたしよりも交通量の多い橋ですね。
 それから、泉橋ちゃん、|明里《あかり》橋ちゃん、木田橋ちゃん……ソロ活動だった昔と比べて、今ではだいぶ賑やかになりましたね。みんなで力を合わせて、福井市の交通の便をよくしてるんですよ。

 ……え、もうお時間ですか? 早いですねー。
 福井発ローカルアイドル「福音のマーメイド」ですけど。わたし達の活躍で、福井と全国の架け橋となれるように頑張っていきたいですね。有名になるのは難しいですけど、でも勝負は|下駄《げた》を履くまでわからないですからね。わたしのは下駄じゃなくて|橋桁《はしげた》ですけどね。
 えー、以上、「福音のマーメイド」の1期メンバー、九十九橋でした。それじゃ!