いえーい！ みっなさーん、こーんにーちはー！
という、アイドルっぽいテンションで始めてみましたけど。えー、このたび「福音のマーメイド」の新メンバーとなりました、｜言奈地蔵《いうなじぞう》です。どうぞよろしくお願いします。
私がね、福マメ最後の1期メンバーなんですけど、十人目にしてやっと人の形をしたメンバーが出てきましたね。福井県の女の子たちで結成するアイドルグループっていうコンセプトのはずなんですけど、一番女の子に近いメンバーが地蔵というね。どういうことなんですかね。
ま、細かいことは言うな地蔵！ ということで。これ、私の鉄板ギャグなんで。よろしくお願いします。ほんと。
さて、改めまして自己紹介です。私の名前は言奈地蔵と言いまして、お察しの通り地蔵です。私のことは、いうなって呼んでくださいね。
あの、福井県の嶺北地方と嶺南地方との間に、｜木ノ芽峠《きのめとうげ》というとっても険しい峠があるんですけど。その峠の途中に私がいるんです。会うのが大変っていう点だけで言うと、ある意味アイドルっぽいですよね。
昔は、嶺北と嶺南を行き来するには木ノ芽峠を越えていくしかなかったんですけど。今では会員番号1番の国道476号さんのおかげで、かなり楽に通れるようになりましたね。
それから、近くには今庄365スキー場も出来て、今はそれなりに賑やかになりましたよ。
ちなみに言うと、山の向こうには、会員番号8番の杉津駅跡さんが居ます。｜辺鄙《へんぴ》な山の中にいる者同士、気が合うんですよねー。
さて、私がいうなって名前になった、とっても有名なエピソードがあるんですけど。このお話をしないと始まりませんよね。
さっきも言ったように、昔の旅はこの険しい木ノ芽峠を越える必要があって。で、その頃には馬子っていう、人と荷物を馬の背中に乗せて、その口を引っ張って歩く職業があったんですね。今で言うとタクシーの運転手みたいなもんでしょうか。
ある日、その馬子が大金を持った旅人を乗せてやって来たんですよね。で、客の大金に目がくらんで、つい魔が差しちゃったんでしょうね。なんとその客を峠から突き落として殺しちゃったんですよねー。もう、いうなビックリしちゃって。こんな平和な峠道で突如起こったサスペンス劇場。
そしたらね、その馬子とね、目が合っちゃったの。人を殺したばかりだから、興奮して目が血走ってて。すっごい怖かったー。
目を逸らそうかとか思ったけどさ、何せこっちは地蔵だからさ。動けないわけ。
そしたらね、その馬子が急に私を見ながら『地蔵言うな、地蔵言うな』って独り言を言い始めたんだよね。
内心さ、うわコイツ何言ってんのとか思ってドン引きしたんだけどさ。一応こっちも地蔵だし、威厳とか必要じゃん？ だから空気を読んで、バシッと言ってやったのよ。
『地蔵言わぬが己言うな』、って。
決まったねー、この名ゼリフ。一応解説しておくとさ、相手の口止めをしたところで、自分自身でうっかり言っちゃうことが多々あるから、十分注意しなさいよ、ってことだね。重みのある言葉だよねー。
で、その場はそれで収まったわけ。
それから何年か経ってさ。あー、ヒマだなーとか思ってた頃さ。またやって来たんだよね、例の馬子が。今度は別の若い旅人を連れてたんだけどさ。
で、私の姿を見た途端、その馬子が話しだしたんだよね。『昔の話なんですが……』って。
なんとその馬子、全部しゃべっちゃったの。若い旅人に。ここで自分がやったこと、洗いざらい全部。
つい気が緩んじゃったのか、罪の意識にずっと苦しんでたのか、その辺はわかんないけどさ。こっちは横で聞いててヒヤヒヤしてたんだけどね。
ところがねー。運命って不思議なもので。実はその若い旅人こそ、殺された客の息子だったんだよ。なんでも、いつか仇を討つ日のために、何度も何度も峠を往復して、犯人を探してたんだってさ。
その馬子、峠を超えたところで、仇討ちで殺されちゃったらしいよ。
だから、言うなって言ったのにねー。結局言っちゃうもんなんだよねー。せっかく忠告したのにねー。
みんなも、発言には気をつけようね。いうなとの約束だよ？
って言うのが、私の名前の由来です。教訓になるねー。
さて、福井発ローカルアイドル「福音のマーメイド」、これで1期メンバー十人が揃いました。まあ、十人と数えていいものかどうかよくわからない顔ぶれですけど。
でも、私達の福井を愛する気持ちは本物です。ファンの皆さんと一緒に、福井を盛り上げていければいいなあと心から思っています。
だから、いつかビッグになった時に｜備《そな》えて、しっかりレッスンに励んでますよ。
何事もそなえは大事だよね。地蔵だけにね。
そんなわけで、期待に応えられるよう全力で頑張りますので、これからもずっとずっと応援してくださいね！
以上、「福音のマーメイド」の1期メンバー、言奈地蔵でした！