jelly-beans

この街で一番甘いプロローグ

 出口は遥か上にある。
 手を伸ばしたって届かない。
 彼女は見上げて唇を噛む。
 それでも、彼女はあきらめない。

 薄暗い部屋から逃げ出すために。
 弱い心に別れを告げるために。
 空虚な殻を叩き壊すために。
 彼女はフレイルを振り回す。

 暗闇から放たれた悪意が彼女を貫く。
 彼女の体がひしゃげて飛び散る。
 それは、色とりどりのジェリービーンズ。
 甘ったるい匂いが立ち込める。
 制服にまとわりついて、頭がぼうっとする。

 それでも、彼女はあきらめない。
 すぐに立ち上がり、また走り出す。
 滑る手をスカートで拭って、必死に彼女の後を追う。

 振り返った彼女は、優しく笑う。
 とろけそうな甘さを、ありったけ詰め込んで。

 どれだけ走っても、光は見えない。
 正しい道を進んでいるのかわからない。
 ただただ退屈を持て余していた日々。
 その頃と、どちらが幸せなのかわからない。

 だけど。
 今は、彼女がいる。

 世間からはぐれたあたしに。
 世間に背を向けたあたしに。
 彼女は、手を差し伸べてくれた。

 彼女はきっとあきらめない。
 たとえ、その体のジェリービーンズがはじけ飛んでも。

 だから、あたしもきっとあきらめない。