jelly-beans

🍨2 ハロー、マイフレンド

　🍬 KURUMI part 🍬

「……んで、あんたはどうしたいわけ？」

　自称お菓子系アンドロイドこと三秀園ショコラは、頬を大福のように膨らませて不貞腐れていた。
　あたし――くるみは、先日のとある出来事を経て、ショコラと親友になった。あたしの前の席に座る彼女は、休み時間になる度に体を反転させてあたしに話しかけてくる。人との接触を完全に遮断していたあたしとしては、こんな経験は本当に久しぶりで眩しいようなこそばゆいような変な感じだ。他のクラスメイトとも徐々に打ち解けてきているが、それは間に立っている彼女の存在が非常に大きいと言わざるを得ない。心の中ではとても感謝しているのだ。

「なんか悔しい。この悔しさをぶつけたい」
「ほう。誰にぶつけたいですか？」
「目の前の友人に」

　あたしかい。
　で、彼女が悔しがっているのが昨日の一件である。お菓子に関する特殊な能力を持つ女の子――彼女は『お菓子系異能力者』と呼んでいるそうだが――の存在を、彼女は感知することができるらしい。あたしの存在に気が付いたのもその能力によるものなんだそうだ。それで昨日も能力者に会いに学校の屋上へ行ったところ、ひょいっと空を飛んで逃げられたらしい。ほんと、いろんな能力を持った人がいるもんだなー。あたしが言うのもなんだけど。

「なんか、ぶつけられても困るんだけどねー」
「だってほら、お菓子系の異能力っていったらあたしの専売特許だったのにさ」
「あ、そうなんだ」
「なんか最近、急に増えてきちゃってね。お菓子系異能力者。なんでだろーねー？」

　なんでだろーね。あたしもそのうちの一人なんだけど。

「増えると何か問題でもあるの？」
「いや、無許可でやってる人は取り締まりしなくちゃいけないから……」
「取り締まり？」
「だから、お菓子警察として……」

　……
　お菓子警察。
　……
　お菓子警察。

　あれか。こいつの脳ミソはウェハースか。大丈夫か。あと届出制なのかこの特殊能力。知らなかったよ。誰が認可してるの？　国？　で極め付けに取り締まってるのがお菓子警察。なにこれ。なにこのパワーワード。ちょっと頭がついていかない。

「どういう組織なの、その、お、お、お菓子……」

　ダメだ。口にするのが恥ずかしくて。

「あ。ひょっとしてくるみちゃん、お菓子警察をバカにしてない？」
「うん……なんか響きがすごくバカっぽい」
「ひどーい。ちゃんとした組織なのに。お菓子警察手帳もあるのに」
「お菓子警察手帳！」

　出てきた。お菓子警察手帳。
　しかもあれか。真ん中のマークはアレじゃないか。お菓子界の女王とも言うべき、あの伝説の指輪型キャンディではないか。すごいでっかいやつ。指にはめてひたすら舐め続けるやつ。なんかちょっとありがたみが出た気がする。

「じゃあさ、拳銃とかは持ってるの？」
「あ、これだけど……」

　あるんかい。
　出てきた。……出てきたけど。
　これアレじゃないか。スイーツデコとかいうお菓子に似せた雑貨を作るときにシリコン絞るやつじゃないか。なんだっけ。そうコーキングガンだ。いやガンと言えばガンだけどシリコンがニュルっと出るだけだよこれ。

「あと警棒もあるけど……」

　それ麩（ふ）だよ麩。お土産屋さんとかに売ってる無駄に長い奴。どうやって取り締まるの。それで。お菓子警察。振った瞬間折れるし水にふやけて溶けるしロクなことないよ。というか、あんたこないだコンペイトウっぽい鉄球つけた武器振り回してたじゃん。それでいいじゃん。なぜ麩。

「わかった？お菓子警察の凄さ」
「うん。わかった。いろいろ」
「ま、全部冗談なんだけど」
「冗談かい！」

　あたしは警棒という名の麩菓子で思い切りツッコんだ。まんまと騙されたよ。

「……実際のところ、お菓子系異能力が身に付く子たちってさ。人生とか世の中に絶望してる子が多いんだ」

　半分に折れた麩菓子を端から齧りながらショコラが続ける。あたしももう半分の方を同じように齧る。

「その能力を得て強くなった気でいるけど、心の何処かでは救いを求めてる。助けて、って叫んでる」

　自分にも思い当たる節が大いにある。確かにそうだった。孤独を気取っていたけど、本音はずっと寂しかった。殻を破ってくれる人を求めて、心は叫び続けていた。 　あたしは左手指からビュルビュルと甘い糸を出してみせた。麩菓子が一層甘くなる。

「だから、助けてあげたいんだ。心の奥にある苦しみから開放してあげたい。あたしは、そのためにいる」

　実際に彼女に救われた立場から断言しよう。
　一見、ただバカなだけの女子高生だけど。苦しんでいる子を救いたいという、その情熱は本物だ。そして、彼女は決してあきらめない。何度でも立ち上がる。最終的には、心を許したくなる。彼女なら信じてもいいという魅力に包まれている。
　彼女には、そんな不思議な力がある。

「……じゃあ、その子とも何とかして友達にならないとね。……あたしも協力するから」
「うん！　くるみちゃん、ありがとう！」

　ショコラはあたしの両手をぎゅっと握り、感激に満ちた目で顔を近づけてきた。
　近い近い近い。またポッキーゲームか。べっこう飴ゲームか。ちょっと恥ずかしくなって目をそらす。
　さて。先方は、この申し出を受け入れてくれるだろうか。

　＊

「うん。いいよ」

　薫と名乗るその女子高生は、この申し出にあっさりと許諾した。

　彼女は今日も屋上にいた。この学校の屋上は、空飛ぶオーバーラン女子高生、砂糖を指から出すキャラメリゼ女子高生、お菓子系アンドロイド女子高生の三人で構成されている。自分が言うのも何だがとんでもない空間だ。

「いいの？友達になってくれる？」
「うん。でも、一個だけ条件があるんだけど」

　いたずらっぽい笑みを浮かべながら、彼女は言った。

「あたしを捕まえられたら、友達になってあげる」

　……さっきから、会話や行動が女子小学生レベルなのが非常に気にはなるが。大丈夫かな、お菓子系異能力者。

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