jelly-beans

🍨4 全力で味方だよ

🍨 KAORU part 🍨

　ぽふん。

　ショコラが落ちた先は、巨大なクッションだった。
　……いや。
　いつの間にか、校庭には巨大な『綿菓子』が製造されており、まるで夕焼け空に浮かぶ雲のようにキラキラと輝きながら辺りを埋め尽くしていた。その中央で、ショコラが満足そうに寝っ転がっている。
　そのショコラに足早に近付いてきた友人が頭を引っ叩く。

「無茶しないでよ、もう……あんた、他人の特殊能力を過信しすぎてない？」
「えー。親友の事を信じて、何が悪いのよう」
「にしてもさ……あー！　あんた脚取れかかってるじゃない！　ちょっと！」
「アイシングでくっ付くから大丈夫だって……」
「そう言うことじゃなくて！　んもう！」
「いやー、｜ポン菓子《パフライス》ロケット、なかなかの威力だったねー。さすがポン菓子。自分でもビックリしちゃった」
「……相変わらずノンキな……」

　あたしもその隣にゆっくりと降り立つ。あたしの顔は、涙でぐちゃぐちゃに濡れていた。

「ああ、ごめん！　薫ちゃんが泣いちゃった！　どうしよう！」
「あんたがややこしいことするからでしょ！」

　あたしの泣き顔を見て、慌てて上体を起こしたショコラがまた引っ叩かれる。

　……どうして彼女は、あたしのために、ここまで全力になれるのだろう。

　その身体を投げ出して、空を飛んだのも。
　いつかのあたしのような、絶望からではなく。
　あたしと仲良くなりたいという希望から。
　今までのあたしのような、他人を見下ろすためではなく。
　あたしと同じ目線になるために。
　あたしから迷わず手を離したのも。
　親友のことを、心から信用しているから。

　そう。ショコラの行動には一片の迷いもない。ただただ、真っ直ぐなだけなのだ。
　羨ましい。自分が今までこだわっていたものがちっぽけに思えてなんだか恥ずかしくなる。こんな人と、仲良くなりたい。あたしも、こんな風になれるだろうか。

「ね？　すっごい変わった子でしょ？」

　ショコラの友人――くるみがあたしに近付き、笑顔で話しかける。

「あたしも、あなたと一緒だった。周りはみんな敵だと思ってた。馴れ合いなんかイヤだ、誰とも仲良くならない。ずっとそうやって、殻にこもって生きてきた」

　彼女は指から糸を出し、左手を覆ってみせた。この特殊能力で彼女は｜殻《カラメル》をまとい、世間を拒絶してきたのだろう。そう、ショコラに会うまでは。

「でも、そんなあたしを、ショコラが救ってくれた。拒絶するあたしにいつまでも食らいついてきた。本当にしつこかったんだよ？　その殻を破って、友達になれるまでは絶対に諦めない、って。やると決めたら、最後までやり遂げる。常に全力なんだ、あの子は」

　くるみの見つめる先には、敷き詰められた綿菓子をちぎって、嬉しそうに眺めるショコラがいる。

「ただ、相手の幸せを願ってる。あたしやあなたみたいな人の事を、本気で心配してくれてる。本気で友達になりたいと思ってる。そんな変わり者が、この街にいるんだ」

　最後の方の言葉はもう聞こえていなかった。あたしは気が付くとしゃがみ込んで大声で泣いていた。そう言えば、泣くという行為も何年振りの事だろう。あの日以来、素直に感情を表現するという事もずっと忘れていた。表現したい相手がずっといなかったからだ。

「全力であなたの味方だよ、あの子は。あたしが保証する。だから、あなたも信頼してみたら？」

　くるみに促されるまでもなく、もう心は決まっていた。
　ショコラの綺麗なロングヘアーが、この街の夕陽を反射して、より一層輝きを増す。

「よーし、みんな友達になれたことだし、景気づけにケーキ食べに行くよ！」

　ショコラの笑顔に照らされて。
　あたしの中のわだかまりが、撹拌されて溶けていく。
　あたしの今の心は、人生史上もっとも軽い。
　それはまるで、ふわっふわのホイップクリーム。いや、それよりも、もっともっと。

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