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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#1 現状を分析します(1)

 人の心はわからない。

 自分の伝えたかったことが、実は相手に全く伝わっていない。相手のことを理解していたつもりで、実はまったくわかっていない。このような苦い経験をした人は少なくないだろう。メモリーカードにデータをコピーして渡すかのように、自分の心を相手に伝えられればどんなに楽か。その問題は、この世に生を受けてから死ぬ瞬間まで絶えず人を悩ませ続けるのだ。

 例えば、小さな赤ん坊。赤ん坊にだって意思はあり欲求はある。自分を優しく抱く母親にその欲求を伝えるにはどうすれば良いか。伝わらないもどかしさで泣き叫ぶ。暴れまわる。やがて赤ん坊は身振り手振りで意思疎通を図ろうとし、さらに言語というものを用いて、より正確に意思を伝えることが可能なことを学んでいく。

 例えば、学生。初めて経験する集団の中での生活。初めて意識する異性という存在。相手の気持ちを察した上で最適解を求めるにはどうすれば良いのか。自分の気持ちを誤解なく伝えるにはどうすれば良いのか。人は皆これに試行錯誤し、悩み、失敗して、そして成長していく。

 社会に出てからはさらに重要度を増す。年齢も性別も出身地もバラバラな人間が集まってチームを組んで仕事にあたるのだ。皆同じベクトルを向いていないと何も進まないだろう。その為には普段からコミュニケーションを密にし、目線を合わせる必要がある。
 などなど。
 人と人とがわかり合うことは、それこそが人生における大きな課題と言ってよいだろう。

 人の心は移ろいやすい。

 自分の取り組んでいることが、最終的にどんな成果に繋がるのか見えないと不安になる。
 やるべきことがたくさんあると、優先すべき事項がどれなのか見えなくなる。
 一つの問題について長い時間をかけて議論しているうちに、元々何が問題だったのか誰も分からなくなっていく。

 これらは誰が悪いという訳でもない。元々人の心はそういう風に出来ていないのだ。忘れやすく、飽きやすく、長続きしない。だからこそ人は、道具を発明し、機械を発明し、電子機器を発明することで自分たちに足りないものを補ってきた。

 例えば、電子メールやメッセージアプリ。これらは多人数とのコミュニケーションを迅速にこなすことができる。文字情報を記録に残すことで、後日読み返すことも可能である。口頭での伝達や電話にはない利点だ。

 例えば、グループウェアなどと呼ばれるソフトウェア。これも組織内の情報伝達、意識の共有と言った点で非常に有益なツールであり、組織の規模が大きくなればなるほど重要性が増す。電子掲示板による情報の周知。スケジュール管理機能による稼働の把握。ワークフロー機能による承認行為の効率化。

 人はこれらのツールを組み合わせ、最適な手法で意思疎通を図りビジネスを展開するのだ。

 これらは現代社会での情報伝達に最適化されたものであるが、過去にはその時なりの最適な手法があっただろうし、未来においてはさらに進化した手法が存在するのであろう。
 あるいは、こことは全く違う別の世界があったとしても。
 その世界なりに最適な手法が使われているに違いない。

 *

 ……そんな現代の日本で、社会人という立場で。
 |藤倉紅子《ふじくらこうこ》は、人の心の難しさについて考えていた。