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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#6 ルールを確認します(2)

「とりあえず、私を的確に仕留める方向のアドバイス、やめてくれない?」
「そう言われましても、レヴィ様をお守りするのが私の仕事ですから」

 紅子の方に向き直ったジェミィは警戒心たっぷりの口調で返答する。

「それから、私は賊じゃないし、あなた方に敵意もありません!」
「じゃあ、誰なんです?」
「だから、通りすがりの美人SEだって」
「SE?」
「あ、あなたも美人の方は受け入れてくれるのね……」

 この世界は意外と優しい人が多いのではないか。紅子の中で、この世界への好感度が少し上がる。

「えすいー…………」

 一方、ジェミィはレヴィと同じように、SEという言葉に心当たりがあるらしく、何やら考え込んでいる。

「……|プログラマー《PG》。|システムエンジニア《SE》。|プロジェクトマネージャー《PM》。……」

 突如、ジェミィの口から呪文のような言葉が漏れる。……いや。ジェミィの抑揚のない声で語ることで、まるで呪文のように聞こえるが……もちろんそれらの言葉は、本職である紅子には馴染み深い言葉ばかりだ。

「異界には、この世界の理を大きく変えることができる三つの職がある……」

 まるでうなされているかのようにジェミィが続ける。が……なんかすごいこと言ってませんか? この職業って、そんな仰々しいもんだったっけ? 給料もたいしたことないよ?

「あなたは、このうち『SE』の資格を有している、と。そう仰るのですか?」
「うーん……まあ、現職は確かにSEだけどさ。それに、プログラムやプロジェクトマネジメントにも関わったことはあるけど……」

 その言葉を聞いて、ジェミィが膝から崩れ落ちた。

「あなたが……あの、伝説のSE……」
「いや、伝説になってたのは初耳だけど」

 大げさに驚くジェミィを見て、紅子は少し心配になった。この世界において、SEやPMとはどんな存在なのだろう……

「……あたしのお母さん……レイラは、上級魔族の中でも特に強い力を持っていた」

 ジェミィに代わり、いつの間にか起き上がっていたレヴィが語り出す。お、この二人、なかなかのチームワークだな。紅子は妙なところで感心する。

「その力ゆえ、考えが他の魔族と合わないことも多かった。ある日、周囲の方針に反発し、独立の道を選んだ」

 ……んーと。なんだか唐突に彼女のお母さんの物語が始まったんだけど、どういうことなんだろう。つまり、会社を辞めて独立開業した、みたいなもんかしら。それは大変だろうなー。経理とか。

「その際、お母さんは、自らの力を強化するために、異界の技術の力を借りた。その|理《ことわり》に生きるのがPGとSE、理を司るのがPM……と、お母さんから聞いたことがある」

 ……えーと。PMが組んだプロジェクト計画にSEとPGが従う、ってことかな?
 というか、さっきから何言ってんのこの子。

「これ以上のことを、あたしは知らない。知らされないまま……お母さんは、姿を消した」

 レヴィの声が不意に暗く沈んだ。ぼんやり聞いていた紅子は慌てて視線をレヴィに戻す。

「自分には、お母さんから受け継いだ力がある。だけど、それが何なのか全くわからない……使い方も、力の大きさも、出来ることも、何もかも。だから、この三つの職のいずれかに就く者に会えれば、何か教わることが出来るんじゃないかって。ずっと探していた」

 レヴィから期待を込めた目で真っ直ぐ見つめられ、紅子は困惑する。
 視線を逸らして隣のジェミィを見ると、こちらはこちらで『レヴィ様の依頼を断った場合は身の安全を保障しかねますがあなたわかってるでしょうね』的な視線で紅子を威圧しておりとても怖い。仕方なく紅子はレヴィの方に向き直る。

「なんだか話がよく掴めないんだけど、さ……要は、SEとしての私の力を借りたい、ってことだよね? ま、力になれることがあるんなら、協力してあげてもいいけど……」

 そう言った途端、レヴィの顔がぱあっと明るくなった。あ、この子はこんなに可愛く笑えるのか。紅子の心に、なんとなく温かい感情が浮かぶ。

「ありがとう。恩にきるわ」

 そう言うとレヴィは……胸元のリボンを解き、ボタンを順に外し始めた。