Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]
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「ちょ、ちょっと、何やってんのあんた」
「レヴィ様、まだ信用できる相手ではありません。そんな無防備になられては……」
二人が慌てて止めに入る。しかし……当の本人も脱ぎたくて脱いでる訳ではなさそうだ。その証拠に、レヴィの顔は面白いくらい真っ赤だ。
「あたしだって、好きで、こんな……」
胸元を大きくはだけながら、モゴモゴと口籠もるレヴィ。よく見ると、ボタンを外す指先も小刻みに震えている。そりゃあ恥ずかしいだろうけど、ねえ。なんで自分から、ねえ。白く輝く谷間が目に入り、慌てて視線をそらす。紅子までなんだか恥ずかしくなってくる。
「あんた。……こっち、来なさいよ。……早く」
「へ?」
「いいから! あと、あんまり見ないでよ……」
呼ばれて戸惑う紅子。助けを求めるようにジェミィを見るが、こちらはこちらで『レヴィ様に不埒な事をしたらただじゃおきませんわよ』的な視線が痛い。紅子はもうどこを見て良いかわからない。視線は泳ぎ放題だ。
「…………くっつけて。…………あんたの、顔」
「はい?」
そっぽを向きながら小声でレヴィが言う。その言葉の意味がいまいちよくわからない。紅子は聞き返す。
「……だから。うずめなさいよ。顔を。…………ここに。あたしの、その…………胸に」
「はい…………はい?」
「んもう、何度も言わせないでよ……」
え、何かのいかがわしい系のサービス? 紅子は混乱する。実はここそういうお店? これ後で料金を請求されるパターン? そういうやつ? 拒んだら怖いお兄さんとか出てきたり……いやいや、何の心配してんだ私は。
「お母さんも、最後……いなくなる直前にそうしてたの。何か、セットアップ、だとか言って……」
レヴィの口調は真剣だ。少なくとも、ふざけている訳ではないようだが。
「ジェミィが同じ事やっても、何もわからなかったけど。SE? のあんたなら、何かわかるかも、と思って……」
その瞬間、紅子の頭にある一つの可能性が浮かぶ。
レヴィの母が借りたという異界の力。それは紅子の世界に存在するIT技術の事と見てもう間違いないだろう。SEだPGだという単語が出てくることからもそれは確実だ。彼女はそのIT技術を自らの魔力と融合させ、おそらく何かしらのシステムを作り上げ、外敵に対抗する手段としたのだ。しかし、何らかの事情で彼女は姿を消すこととなる。その際、彼女はセットアップと称し、自分の娘にその技術を継承させた……
つまり。
この少女にも、何かしらのシステムがセットアップされているのではないか。
異界の技術を借りた、この少女の母が構築したシステムが。
そのシステムにアクセスする方法が――その理由はよくわからないが――少女の胸に顔をうずめることだとしたら。
もっと、端的に言うなら。
この少女自体が、いわゆるサーバーと呼べる存在なのではないか。
あくまで、推論に推論を重ねた一つの可能性だ。しかし、紅子のエンジニアとしての好奇心は頂点に達した。
次の瞬間、紅子は迷わずレヴィの胸に顔をうずめていた。
「ぁあふんっ! ……ちょ……あの、そんな急に……」
気にせず紅子は顔を押し付ける。何も見えない。見えないが……柔らかな弾力に包まれ、成長しきっていない甘い匂いが鼻腔をくすぐり、とにかくとても気持ち良い。この感覚は何なんだろう。これはもうなんか……いや、そうじゃなくて。エンジニアとしての好奇心とは別の好奇心が出てきそうな自分を抑える。しかし、どうやら人間とは異なる種族らしいとは言え、この香りと柔らかさは……いや、だからそうじゃなくて。
さて、この状態から次に何をすればいいのだろうか。このまま終わったらただの変態……ん?
……何かある。
何も見えないはずの暗闇。しかし、目を凝らすと確かに見える。
そこに何かが、ぼんやりとではあるが、確実に存在している。
……何だろう。もっと、近くで……
いつの間にか紅子は、真っ暗な空間を泳いでいるような錯覚に陥っていた。ふわりと体が宙に浮く感覚。まるで電脳空間を漂う|素子《ビット》のように、紅子は必死で泳ぎ、前を目指す。
やがて、それははっきりと見えてきた。
暗闇に紛れて、堂々とそびえ立っているのは……
紅子には、SEには、見慣れたもの。
それは、『例の』コンソールウィンドウだった。