Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]
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|Redmine《レッドマイン》。
そのシステムを、紅子は知っている。その参考書も手にしたばかりだ。買ったかどうかは記憶にないんだけど、まあそれは置いといて。
『元々この世界ってさ、魔法を発動したり、下級魔族を召喚したりする時って、呪文の詠唱が必要なんだけど。
でもね、要は口頭での指示になるわけだから、効率悪かったんだよね。うまく伝わらないこともあるしさ。
そこで、Redmineと私の魔力を融合してみたところ、結構すげぇシステム出来上がっちゃったのよね、これ。自分で言うのも何だけど。
チケットによる指示っていうやり方がぴったりハマってね。魔力が飛躍的に高まったんだよねー。画期的だよね、これ。』
……原理はよくわからないが、レヴィのお母さんは、この世界の魔法の仕組みとRedmineとを融合させて、魔力を効率的に使うシステムを構築したということか。いやー、すごいな。
『だから、反旗を翻して独立したんだけど、敵もいっぱい作っちゃったけど、自分達を守れる十分な戦力はあるんだよね。優秀な仲間もいるしさ。そこまでは良かったんだけど。』
うーん。つまりレヴィのお母さんが率いていたのは、|抵抗勢力《レジスタンス》というか、小さな独立国家みたいなものなのかな。レヴィと、あとはジェミィとかいう旅館の若女将みたいな人と、他にどれくらいの勢力なのか知らないけど。あとで聞いてみるか、詳しいこと。
『私に、ちょっとしたヤボ用ができちゃってさ。ここを離れないといけなくなっちゃって。
で、慌ててレヴィのカラダに、私とおんなじシステムをセットアップしたの。ま、それはそこそこ上手くいったんだけど。
でも、あの娘何にもわかってないし。管理者もいない状態で、無防備に放っとくワケにもいかないんだよね……悪用されちゃったらたまったもんじゃないよ。自分の娘のカラダが乗っ取られてあんなことされるなんて興奮……じゃなくて、悲しいことはないからね。
なので、サービスとかポートとか全部、|無効化《オフ》ってるんだよね。今。
だから、アナタ。アナタの手で、開放してやってよ。
どこの誰だか、知らないけれどさ。
これを読んでるってことは、レヴィはアナタを信頼してる、ってことだからさ。そうでしょ? カラダを許したも同然だもんね。
だから、私もアナタを信じるよ。レヴィを助けてやってよ。頼りない娘だけどさ。
じゃ、よろしくね。異界のエンジニアさん!』
…………。
今までで一番素っ頓狂なReadmeだ。読み終わった紅子は深くため息を吐く。でも、何となく心地良い。
……娘を守る親心、か。
コンソールにアクセスする為にこんな無防備な格好させたのもちゃんと理由があって、心を許せる仲間を見つける為だと思うと…………いや、ホントにそうか? やっぱり必然性ないよなあ……状況を面白がってるだけだよなあ、絶対。
ともかく、次にすべきことはわかった。意図的に眠らされてるポートを開け、サービスを起こす。それだけだ。同じような作業は何度も何度もやっている。
ただ、問題は……
ここで関わったが最後、エンジニアとして今後もずっと面倒を見なけりゃならない、ということか。仕事でもないのに。見ず知らずの案件なのに。
一瞬。CPU1クロック分。紅子は考えた後で結論を出した。
……わかったわよ。引き継いでやりましょうよ、この案件。
この未熟な|待機《スタンバイ》系サーバーを、見事に花咲く|稼働《アクティブ》系サーバーとして動かしてやろうじゃないの。
それに、Redmineと魔力を融合させたシステム、というものにも大いに興味がある。ぜひとも触ってみたい。どういうことができるのか体験してみたい。その好奇心は、抑えることができそうもない。
紅子は、眠っているサービスを一つ一つ起こし始めた。