Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]
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「世界征服よ」
|プロジェクトオーナー《PO》は、細長い菓子をボリボリと齧りながらそう言った。
「世界征服」
「うん。世界征服」
菓子を口に運ぶレヴィの手は止まらない。紅子の力が抜けていく。
現プロジェクトオーナーであるレヴィと、|プロジェクトマネージャー《PM》に就任した紅子。今から両者の間で、経営方針やら運営方針やら目的やらを明確にしておく必要があるのだが。
「今、最終目標を聞かれたのよね? 紅子」
「うーん、まあ、そうだけど」
「だから、世界征服よ」
あんた、世界どころか部下の下級魔族すらまともに操れないくせに……とからかおうとして紅子はやめた。
よく考えれば。まだ年端もいかない女の子が、天才と言われた母の跡を継いで一団を率いているのだ。虚勢を張っていても、実際そのプレッシャーは相当なものだろう。
それならば、『母親が戻ってくるまで領地を守る』なんていう消極的な目標よりは、壮大な目標を持って前に進んでる方がいいのではないか。紅子はレヴィの言葉をかなり好意的に解釈した。
「ま、本プロジェクトの最終目標はそれでいいか。わかった」
と紅子は、手元の端末からRedmineにアクセスし、プロジェクト作成画面で情報を入力していく。
「名称、『世界征服プロジェクト』……と」
「あの……自分で言っといて何だけど、そんなアバウトな感じでいいの?」
レヴィが端末を覗き込みながら心配そうな声で言う。こういう、なかなか強気になりきれない部分が年相応で可愛らしい、と紅子は思う。
「ま、親プロジェクトはこんな感じでいいんじゃない? 目標は大きい方がいいし。本来は、プロジェクトって、成果物の単位で作成するのがセオリーらしいけどねー」
紅子は、参考書に書いてあったことを必死に思い出しながらレヴィに説明する。
「成果物?」
「要は、一つのアプリケーションとか、一本のゲームソフトとか、その単位で」
「??」
「……ま、一軒の家とかでも良いんだけど。そういう、大人数が時間をかけて一つの製品を作り上げることを『プロジェクト』って言って。その取っ掛かりから完成までの進捗を管理するためのツールなわけよ、元々Redmineって。ざっくり言うと」
「へー」
レヴィが身を乗り出して紅子の話に聞き入っている。やはり興味はあるのだろう。なんせ母親が残してくれたシステムである。
「でも、いきなり大きな目標立てても、何から手をつけたらいいかわかんないでしょ? 世界征服とか」
「…………うん」
「そのために、当面の目標を立てるわけよ。例えば、今のままだと、えーと……『|緑の格子盤《グリーンボード》』だっけ? その敵国が攻めてきたらひとたまりもないわけよね?」
レヴィはこくこくと頷く。
「なら、こっちもそれなりの軍事力を備えた一つの国として対抗できるようにしないと。そのためには、兵力を増強するとか、資金を集めるとか……そういうのが必要なんじゃないの? そのへん、それほど詳しいわけでもないけどさ」
紅子は、過去にプレイしたことのあるシミュレーションゲームの知識を総動員しながら話す。
「そういうのは『子プロジェクト』として管理するわ、今回。例えば『部下の魔物を百体にするぞプロジェクト』とか。これだとゴールが明確だし進捗も管理しやすい」
「……紅子、さすがはSEね。いろんな事知ってるのね」
「ま、まあね」
さっき読んだばかりのRedmineの参考書とゲームの知識だけでしゃべってるとはさすがに言いづらい。紅子は愛想笑いでごまかしておく。
「ま、しばらくはこんな感じで、方針とか確認させてもらうから。大枠が固まったら、あとは私がPMとして責任持って回していくからね。いい?」
「うん、わかった」
レヴィの真剣な顔を見て、紅子は安心する。少なくとも、全部PMに丸投げで後から文句言うようなタイプじゃなくて良かったと思う。良好な協力体制が築けそうだ。