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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#14 ユーザーを管理します

「……で、チケットシステムの利点の続きだけど」
「そんな話してたっけ?」
「してたよ! 五分前に! ……まあいいけど」

 レヴィのオレンジジュースはもう残り少なくなっていた。ズゴゴ、ズゴゴという音をあたりに響かせながらレヴィはジュースをすする。

「Redmineの利点の一つが、このチケットシステムの採用で……こういう、誰がどんな作業をいくつ抱えてる、という情報が関係者全員にわかるようになった。これを『見える化』なんて言ったりもするんだけどね」
「ふーん」
「これ、一番大事なことよ。人的リソース……要は兵力ね。それと全体の作業量を常に把握して、最大の効果が出るように配分しないと」
「はあ」
「あとは、特定の人に作業量が偏っちゃった場合でも、今までの進捗をチケットに記述しておけば、手の空いた他の人が引き継ぎやすいしね」
「あー、そのメリットは何となくわかる」

 ……他には、修正箇所とチケットとが紐付くことにより作業内容が明確になるとか、作業を細かく分割することで目の前のタスクに集中できるとか……いや、そこまで言い出したら余計に混乱するか。そもそもこっちの世界では、これはあまり重要ではないだろうし。元の世界に戻った時には、ぜひこの利点を力説するか。ホント、もっと早く知ってれば有無を言わせず職場に導入したのに……

 いや、そんなことより今は目の前のプロジェクトだ。このレヴィ率いる一団は現状いくつもの問題を抱えているが、とりわけ急務なのが敵国への対策じゃないかと思われる。
 なんせ、『|緑の格子盤《グリーンボード》』と呼ばれる国にケンカを売ってる状態なのだ。向こうがこちらを本気で相手にするかどうかはわからないが、攻められることも想定して、少なくともこちらの戦力は把握しておく必要があるだろう。

「というわけで、|戦力《メンバー》の把握は大事なので、さっそく確認するけど。レヴィ軍は、今どれくらいの数なの?」
「んーと、まずはジェミィ」
「うん。他には?」
「|小鬼《インプ》の五兄弟」

 最初に出会ったあいつらか。紅子は数日前のあの光景を思い出す。戦力には……なるのかな? 甚だ不安だ。

「それから?」
「ジェミィの配下の|精霊《ブラウニー》が四匹」

 ブラウニーって、確か家事を手伝ってくれる精霊だったような。普段はこの屋敷の家事をしてるのかな?

「あとは?」
「以上」
「…………へ?」

 マジか。たったそれだけか。戦力として大丈夫かそれ。
 念のため紅子はRedmineの管理画面にアクセスし『ユーザー』のページを開く。…………うわー、ホントだ。そんだけしかいねえー。なにこれー。

「ひょっとして、この戦力で『緑の格子盤』とかいうのにケンカ売ってたの?」
「あ、でも、でも。戦いの時には、お母さんが魔物の大群を呼び出してたんだよ」
「……その大群は、今どこに?」
「それが、戦いが終わるたびにみんな消えてった」
「消えた?」
「うん。その都度召喚してるんだって。で、契約が終わったら帰っていくとか……」

 うーむ、なるほど。何となくシステムがわかってきた。
 まず、今いるメンバーは正規雇用の社員みたいなものか。このメンバーで回るような仕事はこの中で回す、と。
 で、それ以上の大きな案件の場合は、チケットの発行によって魔物を呼び出す、と。つまり非正規雇用の契約社員みたいなもんなんだな。確かにチケットを『業務請負契約書』と捉えれば、まあ納得できないこともない。契約した仕事が終われば業務終了だしな。で、雇うのに必要なのが、お金じゃなくて魔力だと。そういうシステムか。
 ……しかし、そうなると、非常に大きな問題が発生する。

「で、レヴィは、何体くらいの召喚に耐えられるの?」
「うーん、やってみないとわかんない」
「だよねー」

 この戦術は、レヴィのお母さんのような絶大な魔力があることが前提である。現代のIT業界で言うなら、大型案件を受注できる程度の体力を持ってるようなものだ。多数の下請け業者を統制できるような。果たして、レヴィの|魔力《リソース》はそれに耐えられるのだろうか。ひょっとすると、早急に対策を打たないとまずいのではないか? 紅子は少し焦り出す。これ、なかなかの炎上案件になっちゃうのでは……