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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#16 ステータスを確認します

「え、えーと。無事、魔物の召喚には成功したわね」

 何だか上手くいったことに拍子抜けする紅子。相変わらずはだけた胸元を扇ぐレヴィ。嬉しそうに巨大な棍棒を高く掲げて走り回る魔物、オーガくん(仮名)。三者の間をなんとも言えない空気が流れる。

「なんかあの子、すっごい血気盛んだねー」
「うん。けっこう漠然としたチケット切っちゃったからね。闘いたくてしょうがないんだろうね……そこはごめん」

 謝りつつも、とりあえず紅子は端末でチケットのステータスを確認する。『|進行中《Assigned》』。只今作業の真っ最中、ってことだ。

「その『ステータス』っていうのが、いわゆる今の状態ってことよね?」

 紅子に体を寄せ、また端末を覗き込みながらレヴィが質問する。火照ったレヴィの体温が紅子に伝わる。

「そういうこと。|進捗《ステータス》の管理って大事なんだから。それがPMのメインの仕事と言ってもいいくらいだし」

 ……そう。ステータスは大事。チケットの誕生から終焉まできっちり面倒見る責任がPMにはあるのだ。まずは、どんなステータスがRedmineに登録されているのか、ちゃんと押さえておく必要があるな。紅子は改めて確認してみる。
 基本的には|初期値《デフォルト》のままの六つが登録されているようだ。

 まず、『|新規《New》』。
 チケットを起票したが、まだ誰も手をつけてない状態、ってことだ。
 ちなみに、この『|新規《New》』チケットがいっぱい溜まってるってことは、やるべきことはあるのに手をつけられない状態、ってことになる。人手か時間か、あるいはその両方が足りてないプロジェクトということだ。……想像して寒気がしてきた。

 続いて『|進行中《Assigned》』。
 チケットが担当者に割り当てられて、作業に着手してる状態ってこと。
 担当者目線で言うと、ここがスタートだよね。黙々と作業をこなして、次のステータスである『|解決《Resolved》』に遷移させるのが仕事。逆に管理者としては、進行中のまま進捗のないチケットがないかどうか、進行中のチケットをたくさん抱えて苦しんでる担当者はいないか、なんてことに気を配るのが仕事だ。

『|解決《Resolved》』。
 担当者に割り当てられてた作業が終わった状態。担当者からいうと作業が終わって一段落、というところ。一方、管理者には、ちゃんと仕様通り作業が終わっているかどうか|品質検査《レビュー》する義務がある。終わったからって安心しているわけにはいかない。

『|フィードバック《Feedback》』。
 完了した作業についてレビューした結果、出来てないじゃん! ダメじゃん! やり直し! ……っていう状態。仕様どおりに出来上がってこない成果物には何度もお目にかかったことはあるけど、この世界でもあるのだろうか。願わくは、使わずに済みますように。

『|終了《Closed》』。
 作業が完了した状態。正確には、管理者がレビューして「ちゃんと出来てる」って確認した状態だね。管理者がステータスを『終了』にすることで、チケットは無事終了する。

 最後に、『|継続不可能《Rejected》』。
 結局、作業が行われずに終わってしまった状態。
 本来は管理者の判断によりチケットを却下した際のステータスだけど、担当者である魔物の消滅といった要因で作業を継続できない、ということも多いのだろう、この世界では。だから『却下』ではなく『継続不可能』と表記されているのかな、と想像する。

 ……というところか。要は、管理者がチケットを発行し、担当者に割り当てて『進行中』にする。担当者は作業を終わらせて『解決』にする。管理者はその結果をレビューして『終了』にする。その繰り返しがちゃんと回るように面倒見るのがPMの仕事だ。

 それはいいとして。試しに発行した、進行中のあの|魔物《チケット》をどうしようかね。ブンブンと振り回される棍棒の風を感じながら紅子は思案する。

「さて、『戦闘訓練』ってことで来てもらったんだけど。どうする? 調子が良ければもう|一体《ひとり》呼ぶ?」
「んーん、ちょうどいいのがいるよ。……ジェミィ! ちょっと! ジェミィ!」

 レヴィは体をひねり大声でジェミィの名を呼ぶ。程なくしてジェミィは静かに姿を現した。

「ねえジェミィ。あの子相手に戦ってほしいんだけど。もちろん本気で」
「よろしいんですか? レヴィ様。手加減は……」
「いらないよー。思いっきりやっちゃってー」
「……それでは。遠慮なく」

 そう言うとジェミィは、一つ深い息をつくと、剣道の構えのような格好で静止した。次の瞬間、ジェミィの手元が淡く光る。紅い光は徐々に天に向かって伸び、やがて巨大な薙刀の形となった。

「キェィアアーッ!!」

 それは一瞬のことだった。目にも留まらぬ速さでオーガとの間合いを詰めたジェミィは、手にした武器を大きく振り下ろし、オーガくん(仮名)の身体を袈裟懸けに一刀両断した。

 気が付くと、オーガくん(仮名)は煙のように消えていた。端末に表示されたチケットのステータスも、『|継続不可能《Rejected》』へと変わっている。

 ……あー、ジェミィさん、めっちゃ強いんですね。とりあえず安心したー。