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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#18 ロールを設定します

「……二人とも、さ」

 しばらく刻が流れた後、紅子はゆっくりと話し出す。レヴィもジェミィも、紅子の方に目を向ける。

「このプロジェクトは、私が責任持って成功させるから。人手不足は、知恵と技術でカバーすりゃいいのよ。力を合わせれば、きっと出来る」

 力強い紅子の言葉に、二人とも静かに頷く。

「さて。軍備増強なんかも大事だけど、システムに慣れるためにも、まずはジェミィの職場環境から改善してみようか。ジェミィは部下の……|精霊《ブラウニー》達だっけ? 今は、どうやって指示を出してるの?」
「それは……これです」

 ためらいながらジェミィはポケットから小さな端末を取り出す。その画面には、紅子には見慣れたスプレッドシートが表示され、部下への指示が書き込まれていた。
 あー、エクセルの管理台帳ね。はいはい。そりゃ出し辛いよね。

「『|緑の格子盤《グリーンボード》』に居た頃は、この方法で指示を出しておりました……レイラ様はたいそう嫌っておいででしたが、私は恥ずかしながら不勉強で、他に方法を知らないもので……」

 きまりが悪そうにジェミィは言う。

「……ちなみに、指示はちゃんと伝わる?」
「……伝わることもあります」

 ジェミィも苦労してそうだ。紅子は同情する。
 ……確かに、エクセルによるタスク管理が悪い訳ではない。もちろん、管理しないよりははるかにマシだし、ごく小規模な職場ならこれで十分だろう。しかし、人数が増えると途端に破綻する。一覧表示しか出来ないことで優先度の判断が困難だったり当事者意識が希薄になったり、履歴や進捗の管理に不向きだったり、細かな権限管理が出来なかったり、実に様々な問題が……いやいや、これは本題じゃないな。どうにもこの話題になると、つい熱くなってしまう。

「その、ジェミィの仕事なんだけどね。さっそくRedmineベースに切り替えてもらおうと思ってるんだけど」

 と紅子は、手元の端末でプロジェクト作成画面を表示しながら説明を続ける。

「具体的には、屋敷の中のことに関するサブプロジェクトを立ち上げるわ。で、その管理者にジェミィを指定する。あと、|精霊《その子》たちもサブプロジェクトのメンバーにして、直接指示ができるようにする……」

 突如出てきた専門用語に、ジェミィは不安そうに眉をひそめる。

「あ、大丈夫。きちんと説明するから。仕組みがわかれば、なぜ|レイラ《お母さん》がこのシステムを導入したのか、きっと理解できるはずだから」

 その言葉に、ジェミィの表情も和らいだ。

 さて……説明する前に、自分も『|役割《ロール》』について改めておさらいしておこうか……紅子は参考書の内容を思い出す。

 Redmineでは、メンバーにロール、すなわち役割を与えることができる。プロジェクトやチケットに対して、どんな操作権限を持っているのかを定義したものだ。
 デフォルトでは、ほとんどの操作ができる『|管理者《Manager》』、チケットの削除が出来ないなど特定の操作が制限された『|開発者《Developer》』、バグ報告のみを行うメンバーを想定した『|報告者《Reporter》』という三種類のロールが用意されている。これらは何十とある細かな権限を組み合わせたものなので、必要に応じて調整することもできるし、全く新しいロールを作成することもできる。
 例えば、チケットの起票は出来るが削除はできないとか、一切の編集は出来ないが閲覧だけは出来るとか……まさに役割に応じて、柔軟に設定することが出来るのだ。

 さらには、同じメンバーに対し、プロジェクト毎に別のロールを指定することもできる。メインのプロジェクトでは開発者だが、特定のサブプロジェクトのみ管理者に指定する……なんてこともできる訳だ。

 この機能を利用し、家事などの屋内作業全般というサブプロジェクトにおいて、ジェミィに『管理者』というロールを指定し、全てを任せようと紅子は考えていた。

「これで、もっと的確な指示が出来るようになると思うよ。ジェミィの負担も減ると思うし……チケットの発行の仕方、後で教えるから」
「はい。お願いいたします」

 ジェミィは神妙な顔で頷く。

「ねえねえ、あたしには?」

 これでもかとばかりに目を輝かせて、二人の間にレヴィが割り込む。自分も何かの管理者になりたいのだろう。
 はて、レヴィに管理者を任せられるプロジェクトはあるだろうか。紅子は腕組みして考える。うーむ……

「あんたは…………おやつ管理者とか、どうかな」
「お、おやつ? ……やだ、もっと重要そうなのがいい! おやつも大事だけどっ!」
「うっさい! 黙ってアメでも舐めてなさいよ!」
「むむー! 子供だと思って! アメは舐めるけど!」

 広い庭に響く二人の声。その掛け合いを、ジェミィは微笑みを浮かべて見守っていた。