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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#20 マイルストーンを設定します

 その光は、紅子達の頭上から降り注いだ。やがてその光はゆっくりと大きく……平面状に広がっていき、もっと正確に言うと16:9の長方形状に広がっていき、紅子達の目の高さで巨大なディスプレイに変化した。
 驚いた表情でそれを見つめるレヴィとジェミィ。……と、歓喜の表情を満面に浮かべた者がもう一人。

「うわー! うわー! これ何? プロジェクションマッピング? いや違うな。空中にディスプレイが浮かんでる! 大っきい画面! しかもキレイ! 4K? 8K? すごーい! どうなってるのこれ? どうやって映ってるの? 端子どこ? ちょっとレヴィこんな良い物持ってんなら早く言ってよもう! 映画見たい! これで映画見たい!」

 55型以上で4Kで薄型の液晶テレビを自分の給料で買うのが夢である紅子の目の色が変わった。いつになくはしゃいだ口調で一気にまくし立てる。

「あの……紅子様。私は、映っている地図の方が気になるのですが」
「あ……ごめん。そうね」

 冷静なジェミィの言葉に、紅子はふと我に帰る。確かにジェミィの言う通り、その巨大なディスプレイに表示されているのは地図のように見える。だが、紅子のよく知る地形ではない。

「これは……この島の地図、かな?」
「……そう、ですね。間違いありません。この光る点が、私達がいる場所です」

 と、一点を指差しながらジェミィが答える。ディスプレイの下の方に、ジェミィの示す光る点はあった。

「ふーん……じゃあ、ここは?」

 と紅子は、もう一つの光る点を指差す。

「ここは……かなりの山奥ですね。『|緑の格子盤《グリーンボード》』の領土ではあるのですが、あまり人も住んでいない寂しい所だったかと」
「へえ……なんでそんな所が光ってるのかな?」
「さあ、思い当たるものは……」
「そこに、あたしがパワーアップできるようなアイテムとかあるんじゃないの?」

 ずいっ、とレヴィが身を乗り出す。光る点に向かって勢いよく突き出した指は、ディスプレイをすり抜けた。

「んー、確かに一理あるかもね。ここに行けば魔力の増強ができる、と教えてくれてるのかも」
「きっとそうだよ! 行ってみようよ!」

 レヴィは紅子のスーツの袖口をつまみ、左右に揺らしながら訴えかける。

「そんな簡単に言うけど……ジェミィ、その場所までどれくらいかかるの?」
「そうですね、徒歩で五日くらいでしょうか」
「……ちなみに、徒歩以外の移動手段って」
「ありません」

 にべもなくジェミィは答える。

「ほら、レヴィ、そんな散歩気分で行けるところじゃないから。行くにしても、もうちょっと対策を練って……」
「むー……あ、そうだ。それもチケット発行すればいいんじゃない? 『目的地まで運んで!』とか」

 名案だ! という顔で、レヴィは満足そうに頷く。……お母さん、あなたの残したシステムで、あなたの娘さんはどんどん自堕落になっていきますよ……心の中で、紅子はそう呟いた。

「確かに、それで移動は楽になるかもしれないけど。でも、誰が行くの? レヴィはこの屋敷を留守にする訳にはいかないんじゃない? それこそ、魔物とかを派遣して……」
「レヴィ様の留守は、私が守ります」
「え」

 ジェミィが即答する。一緒になってレヴィを止めてくれると思っていた紅子はジェミィを二度見する。

「本当は、私がレヴィ様に付いて行きたいのですが。私がこの屋敷を守り、紅子様とレヴィ様が一緒に向かうのが適役かと思います」
「え」

 再び絶句する紅子。

「ちょっと、なんで私がレヴィと一緒に行くことになってんの?」
「レヴィ様のこと、よろしくお願いいたします」 「ええー、|システムエンジニア《SE》は内勤がメインなのよ! もう……」

 浮き浮きした顔のレヴィと、暗い顔の紅子。二人の|標石《マイルストーン》は、とある山中を目指して設定された。