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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#21 その色は緑

『|緑の格子盤《グリーンボード》』。
 その国の名と、|緑地《みどりじ》の中央に格子を表す『#』が描かれた国旗は、この島の隅々まで広く知れ渡っている。知らない者を探すとしたら、おそらくかなり骨の折れる作業となるだろう。

 この島を巡り、長きにわたって魔族同士による激しい争いが繰り広げられてきた。しかし数年ほど前から、特に抜きん出た技術力、そして兵力と財力に物を言わせて急速に勢力を拡大し、ほぼ島の覇権を握るまでになった国がある。その国こそ、『緑の格子盤』だ。

「……もー、長い長い! 説明が長くてクドくてわかりにくい! 半分寝てたわよもう。一言で言ってくれる?」

『緑の格子盤』の中枢である王城は、島のほぼ中央に位置する。同国の高い技術を結集して建造されたその王城は、まさに国の勢いを示す絢爛豪華な作りとなっており、栄華の象徴として堂々とそびえ立っている。

「……だーかーらー。要点を簡潔にまとめてくれないと。プレゼンの基本でしょ? もー」

 現在、この国の全権を握るのが……先程から苛立った声で話している魔族の女性だ。『緑の格子盤』初代当主、〈翠玉女帝〉エクシエラである。

「わかった、わかった。つまり、北方はおおむね順調ってことね。次までに、プレゼン練習しといてね」

 そう言ってエクシエラは、野良犬でも追い払うかように手を振り、同時に回線を切断した。モニターの向こうにいた北方制圧軍の部隊長は、慌てた表情で何か言いかけたが、その言葉がエクシエラに伝わる事はなかった。

「オデッサぁー。聞いてたー?」
「はい」

 エクシエラの背後、目立たない位置に立っていた女性が、返事と共にエクシエラのすぐ側まで歩み寄る。
 彼女の名はオデッサ。大人の雰囲気を振りまくエクシエラとは対照的に、小柄で幼い印象だ。しかし、豊富な知識と高い分析力をエクシエラに寵愛され、『緑の格子盤』の参謀と称されている。

「どう思う?」
「|抵抗勢力《レジスタンス》のかなり激しい反抗を受けていると思われます。報告の歯切れが悪いのもそのためでしょう。あの土地は、古神の根強い信者が多い地域ですので」
「ホント、いつまでも化石をありがたがってる連中って救いようがないわね。そんなの相手に手こずってるヤツも……ところでさ」

 エクシエラは大きく身を乗り出した。豊かな胸元があらわになる。

「レイラ姉さまの行方は? 見つかったー?」

 オデッサは首を横に振る。

「相変わらず、|魔力通信網《ネット》との接続を完全に絶っているようです。もしくは、痕跡を残さないよう通信を書き換えているのか……いずれにしろ、全く捕捉できません」
「えー、ショックー。お姉さまったらどこに隠れたのかしら、もう」

 エクシエラは下唇に人差し指を当て、不満げに呟く。

「じゃ、|地上索敵機《ホリゾンタル・ルックアップ》からの報告は?」
「ありません」
「えー。ちゃんと探してんの? サボってない?」
「機械魔獣ですから。そのようなプログラムは……」
「わかってるわよ。マジメねー、あんたも。そこがカワイイんだけれど」

 こほん、とオデッサは小さく咳払いをする。

「ところで、エクシエラ様。一つだけ気になる報告がありまして」
「え? なになに? それを先に言ってよー」

 またエクシエラは身を乗り出した。先程よりも大きく胸元がはだけたが、本人は気にする様子もない。

「レイラ様の行方を探すのは非常に困難なので、共に反逆した者たちの痕跡を探っていたのですが」

 エクシエラの胸元から視線を外しつつ、オデッサは続ける。

「かつてレイラ様の側近を勤めていた、〈紅玉の刃〉ジェミィという者がいるのですが」
「あら、いたの? そんなヤツ」
「はい。割と人気もあったようですよ? 非公認ファンクラブも存在していたようです」
「へー。興味が湧いてきたわ。会ってみたいわね」
「その、ジェミィのものと思われる魔力通信の痕跡が、南西地方の街で一度だけですが記録されています」
「えー。どうせまた|偽情報《ダミー》じゃないの?」

 エクシエラは露骨に顔をしかめる。

「レイラ姉さま、出ていく時にさ、デタラメなデータやら通信やら山ほど仕込んでくれちゃったじゃない。それに何度もダマされて……復旧するのもすっごい大変だし……」
「さすがはレイラ様ですよね。あの短時間で事を成し遂げる技術力はさすがです」
「ほめてる場合じゃないっての」

 頬を膨らませ、ふて腐れた顔でエクシエラは吐き捨てるように言う。

「もちろん、また偽情報の可能性もあります。しかし、他に手掛かりもありませんし、当たってみるのが得策かと」
「……そうね。一緒にいれば一網打尽だわ……レイラ姉さまったら、見つけたら絶対オシオキしてあげるんだから。楽しみだわ。……そうだ、どんなオシオキをするのか、表にまとめとかなきゃ……」

 エクシエラは、ぞくぞくとした快感が身体中を駆け巡るのを抑えきれず、恍惚とした笑みを浮かべる。そんなエクシエラに一礼し、オデッサは静かに部屋を後にした。