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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#25 亜麻色の髪の魔族

「あだだだだ! 痛い痛い痛い痛い!」

 激痛で紅子は目が覚めた。幸せな夢の中から、一気に現実……いや地獄に叩き落される。

「足! 足! 足|攣《つ》ってる!」

 左ふくらはぎから伝わる、悶絶するほどの痛み。いわゆる『こむら返り』と言われる現象だ。とか冷静に解説してる場合じゃない。めっちゃ痛い。

「あ、おはよー」
「おはようじゃないよ! なんとかしてレヴィ!」

 のたうち回る紅子の悲鳴を聞いたレヴィが、頭をかきむしりながらゆっくりと目を覚ます。そんな呑気な態度のレヴィに、紅子は涙目で抗議する。

「なんとかしてって……おかげで、ちゃんと目を覚ましたじゃない」
「……あれか! ……痛てて」

 紅子は慌てて端末を操作し、『明日の朝七時に起きる』と書かれたチケットを表示させ、『|進行中《Assigned》』となっていたステータスを『|終了《Closed》』に遷移させる。……ふくらはぎの痛みが治まってきた。

「……なんだよこのシステム! 誰だよ作ったの!」
「ちゃんと起こしてくれたんだから、いいんじゃないの?」
「こっちは最悪の目覚めだよ! こんな起こし方あるか! あんたに|割り当て《アサイン》しとけばよかったよ!」
「|システムエンジニア《SE》が|サーバー《あたし》に文句言っちゃダメでしょ。使いこなしてない自分に文句言いなさいよ」

 思わぬ正論を突きつけられて紅子は言葉に詰まる。うう、すっごい悔しい。次からはきっちり『イケメン執事が朝七時に優しく起こしてくれる』って書いてやる。魔力のムダ使いだとか言われても知ったこっちゃない。

 ふくれっ面の紅子を尻目に、レヴィはばしゃばしゃと顔を洗うと、櫛で髪をときだした。……思えば、これも初めて見る光景だ。光の加減によって金色にも明るい茶色にも見える、その自然なウェーブのかかった長い髪は、普段はツーサイドアップに可愛らしくまとめられているが、下ろすとかなり印象が変わる。

「へえー……」
「ん? どうしたの、紅子?」
「あ、いや……違う髪型って、初めて見たから……」
「そうだっけ? ……あたし、あんまり好きじゃないんだ、この髪。くせっ毛だし。紅子みたいにキレイなストレートのほうがうらやましいよ」

 レヴィは髪の毛を引っ張りながら呟く。

 紅子は、あまり髪の毛に気を使ったことがない。仕事中に邪魔になる時にまとめてポニーテールにするくらいで、やや栗色がかった黒髪を無造作に伸ばしたままにしている。
 綺麗なストレートだと言ってくれたのは嬉しいが……どうなんだろう。やっぱり世の男たちは、レヴィみたいに女子力高そうなゆるふわヘアの方が好みなんだろうな……

「……なによ。支度しないの?」

 ヘアゴムを口に咥えながら、レヴィは紅子を睨みつける。見惚れていた紅子は慌てて目をそらす。

「わ、私も、そういう髪型、似合うかな」
「え?」
「あんまり、髪型とかお洒落とかに気を使った事ないんだよね……男っぽい職場だし、彼氏もいないし。あと、化粧品や洋服より、技術書とかの方が興味あるし」
「ふーん。ま、いいんじゃない? それで。十分可愛いし、そっちの紅子の方が好きだよ、あたしは」
「そう? ありがと」

 褒められて悪い気はしない。紅子の頬が緩む。

「……あの、ニヤついてるところを悪いんだけど」
「ん?」
「……あっち向いてくれる?」
「……え?」
「着替えるから! 恥ずかしいから!」

 紅潮した顔でレヴィが叫ぶ。なぜか紅子も顔を赤らめ、慌てて後ろを向いた。……冷静に考えれば、恥ずかしがることないはずなんだけど……ま、いいか。私も|仕事着《スーツ》に着替えよう。
 紅子は、決して着心地の良いとは言えなかった部屋着を勢いよく脱ぎ捨てた。