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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#26 異界の青空の下で

「おや? ……」

『|緑の格子盤《グリーンボード》』王城、監視ルーム。島の各地にある砦や、島中を巡回している索敵機などが報告する情報は、魔力通信網を通じてこの監視ルームに集められる。その監視用コンソールを覗き込んでいたオデッサは、ある異変に気付く。

「この|地上索敵機《ホリゾンタル・ルックアップ》、昨日から動いてないですね……」

 王城の南東にある山の中腹。索敵機からの応答はあるものの、位置情報に全く変化がない。

「故障、でしょうか……」

 しばらくじっと考える。その後、モニターの表示を地図に切り替え、またしばらくじっと眺める。

「……この部隊に回収に行ってもらいましょう。近いですし、暇そうですし……何より、簡単な仕事じゃないかも知れませんし」

 そう呟きながら、オデッサはキーボードを叩き、課題表に命令を書き込む。データを送信した後で、彼女はもう一度地図を眺め、微かに笑う。

「……南、ね……」

 *

「ねえ、レヴィ」
「んー?」

 今日も抜けるような美しい青空だった。
 宿屋を後にした紅子とレヴィ、そして二匹の|魔物《オーク》は、朝から快調に山野を駆け抜け、森の入口を前にして休憩中だ。

「この点だけどさ、やっぱりこっちに近づいてるよね?」

 レヴィは紅子の肩に顎を乗せ、背後から端末を覗き込む。

「うーん、確かに。昨日の段階ではもっと向こうにあって……」
「で、今朝は山の頂上付近にあった。で、今は少しだけこっちに近づいてる」
「目的地が移動してる、ってのは間違いなさそうだね」
「そう、みたいね」

『レヴィの魔力を増強する』というチケットの|標石《マイルストーン》として示された場所。すなわち、この旅の目的地は、明らかに当初の位置から移動し、こちらへと近づいてきていた。
 これは何を意味するのか。目的地は特定の場所だと紅子は思っていたが、そうではないようだ。だとすれば、この光る点が示しているのは、人か、あるいは乗り物とか……

「このペースだと……あと二、三時間もあれば到着できそうね」
「ひょっとして、ここで待ってたら、向こうからやってきたりして」
「ふふ、それなら楽なんだけどね」

 紅子は目的地の方角に視線を向ける。木々の向こうに、ひときわ高くそびえ立つ山が見える。元々目指していたのはあの山の向こう側だろう。それが、目的地の方から近づいてくれたおかげで、予定よりも早めに出会えることになりそうだ。……レヴィの魔力を増強してくれるであろう、何者かに。

 しかし、美しい自然と綺麗な空気に包まれ、本当にのどかなところだ。紅子は大きく深呼吸しながら、学生の頃まで過ごしていた田舎のことを思い出す。山や田畑ばかりが目に入る田舎のことは、子供の頃は好きではなかったし、早く都会に出たいとばかり思っていた。しかし、いざ都会の真ん中で生活するようになると、こういった豊かな自然がいかに貴重なのかがわかってくる。不思議なものだ。
 紅子はぐるりとあたりを見回す。一面に広がる美しい緑、華麗に咲き誇る花。陽の光を反射して舞い遊ぶ鳥、そして優雅に空中を泳ぐ巨大な魚…………

「……レヴィ」
「どうしたの?」
「……あれ、何?」

 紅子は目的地と反対方向、自分たちが先ほど通過した場所を指差す。そこには、草原にいるのは明らかに場違いだと思われる、巨大な魚の形をした生き物が、何匹か群れをなして空中を泳いでいる。

「……あたしも、あんなの初めて見たよ。何だろう……」

 レヴィも一緒に首をかしげる。やがて、近づいてきた生き物の姿形がはっきりしてくるにつれ、紅子の顔が青ざめる。

「……敵だ」
「え?」

 その額には、|緑地《みどりじ》に『#』のマークが描かれている。どう見ても『|緑の格子盤《グリーンボード》』の配下の魔獣なのは間違いない。

「早く、逃げなきゃ」

 そして。なぜか紅子には直感でわかってしまった。元の生き物が持つ可愛らしいイメージは欠片も感じられないほど禍々しい雰囲気である。それなのに、それが何の生き物なのか、紅子には確信があった。あれは……

「…………イルカだ」