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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#31 あれから

 あれから一ヶ月が過ぎた。

 ガントチャートを眺めていた紅子は、ジーナ達と出会ったあの日のことをふと思い出す。……しかし、魔獣に出会って以降の事は、実はよく覚えていない。気がついたら、その日出発した宿屋で横になっていた。極度の緊張とその後の安心感で、完全に力が抜けてしまったのだろう。
 宿屋までは、ライカがおんぶして運んでくれだそうだ。後でそれを聞いて紅子は赤面した。それにしても、負ぶったり負ぶわれたり、つくづく背中に縁のある旅だった。

 ちなみにその翌日、『屋敷に帰る』というチケットを発行したところ、|天馬《ペガサス》が四頭出現して紅子は度肝を抜かれた。サーバースペックの大幅な強化を実感した瞬間だった。やっぱり潤沢なリソースは気持ちがいい。

 屋敷に戻ってから、ジェミィの長く激しいお説教を聞くことになった。そういえば、屋敷の防壁を急に解除した上に、細かい説明もしないまま丸一日以上放置していたのだった。不測の事態だったとはいえ、心配をかけてしまったことには変わりない。そのお詫びとして、『庭の掃除をする』というチケットはしばらく紅子の担当として|割当《アサイン》されることになった。

 ジーナには、|負荷分散《ロードバランシング》についてちゃんと承諾を得た。あの時は、レヴィの魔力回復のため半ば強引に設定させてもらうことになったのだが、もちろん本人にその意思がないのであれば解除するつもりでいた。その上で、できれば今後も力を貸して欲しい……というお願いをしようとしていたのだが、ジーナは拍子抜けするくらいあっさりと承諾してくれた。むしろ、喜んでレヴィの力になりたいそうだ。

 その、レヴィとジーナに設定した負荷分散機能について補足しておこうか。
 仕組み自体は、サーバー運用時の定番とも言える手法だ。複数台のサーバーと、ロードバランサというシステムとで、全体として仮想的な一台のサーバーに見えるよう構築する……というものである。ロードバランサが窓口に立ってクライアントからの要求を受け付け、背後にいるサーバーの中から最も手の空いてそうなサーバーにそのリクエストを投げる、という方法で負荷を分散するのだが……魔族同士でも有効に動作してくれたおかげで、魔力の共有に成功し、レヴィの魔力不足を補うことが出来た。
 何度かこのような案件を経験しておいてよかった、と紅子は安堵した。何でも経験しておくものだ。ちなみに現実世界のRedmineも、このように負荷分散させて運用している事例はあるのだろうか……と紅子は考える。元の世界に戻ったら調べてみよう。

 あと……あれ以来、ジーナはなぜかベタベタと甘えてくるようになった。第一印象はもっとクールな感じの女の子かと思っていたのだが。片時も紅子のそばを離れず、マネジメントの様子をじっと観察している。そのおかげでチケットの発行方法もマスターし、サブプロジェクトも安心して任せられるようになった。紅子にとっては年の離れた妹が出来たみたいで嬉しいのだが、レヴィからの視線が痛い。あの視線は何なのだろう。まさか……嫉妬だろうか?

 そのレヴィは、なんと筋力トレーニングに励むようになった。
 能天気なように見えてプライドの高い彼女、旅の途中で魔力が尽きてしまったことを相当悔やんでいるようだ。また、ジーナとの|魔力共有《ロードバランシング》において、|主役《プライマリーサーバー》は自分だ、という意識は譲れないところなのだろう。とは言え、筋トレが魔力増強に最適な手法なのかどうかはよくわからない。プルプル震えながら腹筋を鍛えている姿を見ると、少しだけ可哀想になってくる。より効率的に魔力を増大させる方法、今度探してあげようか。

 あとは、ライカ。彼女もそのまま屋敷に留まることを快諾してくれた。レイラと交わした約束もあるそうなのだが、ジェミィがいることも大きな決め手になったようで、会えたことをかなり喜んでいた。剣術の指南もしてもらっているようだ。ジェミィ、実は名の知れた存在なのだろうか……そう言えば、ジェミィの経歴については簡単にしか聞いたことがなかったな。今度じっくり聞いてみようか、と紅子は考える。
 いずれにしろ、大きな戦力が増えたのはとても心強い。このプロジェクトも、かなり賑やかになってきた。

 それから。そもそもジーナとライカが旅をしていた|経緯《いきさつ》なのだが……