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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#34 課題を管理します(1)

『|緑の格子盤《グリーンボード》』王城。
 眉間にしわを寄せて部下の報告を聞く〈翠玉女帝〉エクシエラ。何度となく繰り返された光景だ。その様子を無表情で見つめる、参謀オデッサ。こちらもいつも通りである。

「……で、そっちの状況はどうなってんの? 課題は解決した?」

 壁の中央に掛けられた大きなモニターに映るのは、西方制圧軍の部隊長である。モニターの向こうとはいえ、エクシエラを前にかなり緊張した様子だ。目をキョロキョロと泳がせながら、上ずった声で返事をする。……いや、視線が泳いでいるのは、エクシエラの露わになった胸元が気になるからかもしれないが。オデッサは部隊長に少し同情する。

「はい、って……なんか全然進んでないように見えるんだけど。ホントにやってる?」

 指で机をコツコツと叩きながら、エクシエラが詰問する。

「この件なんか、何も報告がないんだけど。……え、どの件って……その下から四つ目に書いてあるでしょ! セルの下の方に…………なんで隠しちゃってるのよ! 気付かなかったの? もっとちゃんと広げて最後まで読みなさいよ!」

 どうやら部隊長は、指令の末尾に書かれた文を見落としていたようだ。追記に追記を重ねた指令は、枠をはみ出してしまっている。

「あーもう、わかったわかった。次の報告までにやっておきなさいよ。また同じ事やったら……わかってるわよねぇ?」

 しどろもどろな言い訳を途中で切断し、エクシエラはモニターを切り替える。続いて映し出されたのは、南方制圧軍の部隊長。まだ若いその部隊長は、さらに緊張した様子だ。手が震えている様子まではっきり映っている。

「ちょっとアンタ、大丈夫? そんなんで仕事務まるの? ……まあいいわ、報告をお願い」

 初めは冷静に対応していたエクシエラだが、また徐々に苛立ちを募らせていく。指先が刻むリズムが早まる。

「だから、一番下に追加されてるでしょ!? その課題……ちょっと! そっちは古いヤツ! 最新のデータはこっち! 見てるデータが違うの! ……え? だから、ファイル名に『最新』って書いてあるけど最新じゃないのよ! ちゃんとタイムスタンプ確認してよ……」

 そんなやりとりを眺めながらオデッサは、エクシエラとレイラとの会話を思い出していた。
 仕事の効率が悪いのは、仕組みに問題があるからだ。もっと効率良く、もっと正確に仕事を回す方法はあるはず……そう言ってレイラは、頻繁にエクシエラと議論を交わしていた。結局、エクシエラは今の方法にこだわり、レイラは袂を分かつことになったのだが……

「……なんか、マトモなの一人もいなくない? ウチの部隊長ども。やっていけるのかしら……」

 気がつくと、部隊長の報告は終わっていた。オデッサは慌ててエクシエラに視線を戻す。

「すみません……ツールの扱いに不慣れなようです。教育しておきます」
「頼んだわよ、オデッサ。これが使えないヤツなんか、ウチに必要ないんだから……」

 エクシエラは、椅子を回転させてオデッサの方を向き、すらりと伸びた白い脚を組み替える。

「結局、頼りになるのって、アナタとレイラ姉さまくらいよね……あーあ、レイラ姉さまがいたらなあ……」

 そう言いながらエクシエラは、弾みをつけて立ち上がり、オデッサの席へと近づいた。前屈みで机に頬杖をつくエクシエラと、椅子ごと若干後ずさりするオデッサ。至近距離で並ぶ二つの顔。いつもの質問だ、とオデッサは身構える。

「で、何か手がかりは見つかった? レイラ姉さまの」
「いえ……まだ、芳しい報告はありません」
「そう……」

 先ほどの報告時とは打って変わり、満面の笑みを絶やさないエクシエラ。ただし、威圧はかなりのものだ。これだけで泣きだす部下もいるかもしれないな……とオデッサは思う。