redmine-fantasy

Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

This project is maintained by 8novels

#37 フィードバックします(2)

 続いて紅子は、ジェミィの元へと向かった。
 ジェミィがこの屋敷にいるきっかけは、以前に少し聞いたことがあるが……さらに詳しい事を聞いておく必要があると思ったからだ。ジェミィとレイラ……レヴィのお母さんが『|緑の格子盤《グリーンボード》』に所属していた頃のこと。独立した経緯。それから、どのように『|紅の宝庫《レッドマイン》』の一団を守ってきたか……

「……『緑の格子盤』は、現当主であるエクシエラと、レイラ様とが中心となって興した国です」

 食堂のテーブル。ジェミィの淹れてくれた紅茶をすすりながら、紅子は話を聞く。

「始めは、国と呼ぶにはあまりに小さな一団でしたが……しかし、当時としては抜きん出た技術力と、お二人の強大な魔力によって、あっと言う間に大きな国へと成長していきました」

 大企業になったベンチャー企業みたいなものか……と紅子は考える。現代でも、若い技術者が興した小さな会社が、やがて世界を動かすような大企業になった例をいくつか知っている。

「私が幼かった頃、ある出来事がきっかけでレイラ様に出会いました。その雄姿と、レイラ様の考える理念に感銘を受け、レイラ様の力になりたいと思うようになりました。それから薙刀術に磨きをかけ、何年か後にレイラ様の親衛隊として志願したのです」

 そして、その姿に憧れて入社する少女……と。こうやって、優秀な企業には優秀な人材が集まるんだな。私ももうちょっと技術力があれば、あの会社に入りたかったんだけどな……

「レイラ様が、王城の南方……この辺りのことですね。その制圧軍の部隊長となられた時、私もその隊に加わりました。しかし、その頃からでしょうか……エクシエラとレイラ様との間で、国の運営に対する方針が対立しだすようになりました。……確かに、国の規模が大きくなるに連れ、意思の伝達における不備、兵たちの意識の違いなどが目立つようになってきたのです。それでも、あくまで旧来の方法にこだわるエクシエラに対し、もっと効率の良い方法がある、とレイラ様は盛んに力説されておりました」

 二人には会った事がないが……その様子は紅子にも何となく想像できる。変わる事を望む者、望まない者。現代社会でも、似たようなやり取りはあらゆるコミュニティの中で幾度となく繰り広げられている。もちろん、紅子のいた会社も例外ではない。

「それからしばらく、レイラ様は部隊の指揮を私や他の者に任せ、お一人でどこかに旅をされておりました。帰ってこられた時に、満面の笑みで私たちに仰ったのです。画期的な方法を見つけた、と。これこそが求めていたものだと。これで世界を変えられるかもしれない……しかし、それがエクシエラに受け入れられる事はありませんでした。……レイラ様が『緑の格子盤』に反旗を翻したのは、それからしばらく後の事です」

 その『画期的な方法』こそが、Redmineの事だ。どうやって辿り着いたのかはわからないが、レイラは魔族たちの国をマネジメントする方法として、Redmineに可能性を見出したようだ。しかし、その思いは届かなかった……

「その後のレイラ様の戦い方は、それはそれは洗練されて見事なものでしたよ。レイラ様の召喚した、統制の行き届いた兵たち。圧倒的な戦力差を物ともせず、『緑の格子盤』を翻弄し続けました。しかし、今にして思えば……その戦いは、どこか殺伐としたものではなかったように思います。……何と言うか、壮絶な姉妹ゲンカのような感じで。お互いが、お互いの主張を認めてほしいと言うような。そういう印象でした」

 国レベルの姉妹ゲンカか。この世界はスケールが違うな。紅子は感心する。

「ところが……レイラ様は、突如兵を引き上げ、隠れるようにこの屋敷へと入られました。私や、レヴィ様を連れて。そして、そのすぐ後に、レイラ様はまたどこかへ旅立たれてしまったのです」
「レイラさんは、ジェミィやレヴィに何か言い残していかなかったの?」
「はっきりした事は仰らなかったのですが……」

 と前置きしつつ、ジェミィはレイラが残した言葉を口にした。その内容が、紅子には少し引っかかる。……引っかかるのだが、今は考えがまとまらない。後でじっくり考えてみよう。紅子は残った紅茶を飲み干し、席を立った。

「聞かせてくれてありがとう。あと、紅茶美味しかったわ」
「どういたしまして」

 ジェミィは、優雅な身のこなしでティーカップを片付け始めた。