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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#38 フィードバックします(3)

 広い庭の真ん中では、ジーナとライカが対峙していた。ジーナは精神を集中させるかのように静かにうつむく。一方のライカは両腕で大剣を構え、鋭い眼光でジーナを睨む。どうやら戦闘の訓練中のようだ。

「……|全方位弾《ブロードキャスト・パケット》!」

 ジーナの掛け声が響く。同時に、高く掲げたジーナの右手が光に包まれた。手の先から無数の光弾が現れ、勢いよく四方へと発射される。だが、ライカはその弾幕を華麗にかわし、大剣で弾いていく。

「|要求爆撃《スマーフ・アタック》!」

 畳み掛けるようにジーナは次の魔法を発動する。ライカの頭上に、今までよりはるかに大きな光弾が出現した。次の瞬間、まるで|雹《ひょう》のように光弾がライカ目掛けて降り注ぐ。ライカは地面を転がりながらそれを回避する。やがて光弾が尽きた頃合で、ライカはジーナとの距離を一気に詰めようと駆け出した。

「|遅延過多《ハイ・レイテンシー》!」

 ジーナの声とともに、ライカの周囲を黒い霧のようなものが包む。ライカの動きが大幅に鈍った。その顔にわずかに焦りの色が浮かぶ。ライカはまるで水中を泳ぐかのような緩慢な動きで、その霧からの脱出を試みる。やがて、何とか霧の外へ転がり出たライカは、改めて大剣を構え直す。

 ……両者の迫力に圧倒され、紅子は大きく息を吐き出した。その姿に気付いた両者は、緊張を解いて紅子の方を向く。

「あ、ごめん。邪魔したみたい」

 その言葉に、ライカは笑顔で首を横に振りながら剣を収めた。ジーナの顔にも笑顔が戻る。……しかし、歴戦の傭兵であるライカはともかく、まだ幼いジーナの堂々とした様子に紅子は感心する。戦闘には慣れているのだろうか。また、それ以上に気になるのが……

「ところでジーナ……前から聞きたかったんだけど、その魔法、どうやって覚えたの?」
「この魔法ですか?」

 ジーナは額にうっすらと滲んだ汗を拭いながら笑顔で答える。

「昔……レイラさんにお会いした事があって。その時に、あなたは魔力通信を制御する適正があるからと、魔力通信に関する文献をくださったんです。それらを読んで勉強しているうちに、いろいろ操れるようになって」

 ……やっぱりレヴィのお母さんが絡んでたか。しかし、適性があるとは言え、ここまで魔力通信の仕組みを理解し、応用できるとは。かなり優秀なネットワークエンジニアである。ひょっとしたら、現代の日本でちょっと勉強すれば、CCIEとか合格できちゃうんじゃなかろうか……

「あー、いたいた! ジーナ! 特訓するから相手してよ!」

 明るい声が庭中に響き渡った。振り返ると、屋敷の玄関を飛び出したレヴィが、一直線にこちらに駆けてくるところだった。

「あ、紅子も! ライカもいる! ちょうどいいや、二人とも参加して! あと紅子、|負荷分散《ロードバランシング》とか言うの一旦オフにしてよ! ジーナとガチで勝負するから!」

 レヴィは一気にまくし立てる。いつものレヴィらしい元気な声に、紅子は安堵する。

「レヴィ、筋力トレーニングはもういいの?」
「それはもういいの! それより実践練習よ! ね、紅子?」

 レヴィが真っ直ぐに紅子を見つめる。その表情は、どこか吹っ切れたような感じだ。先ほどの紅子の話は、ちゃんとレヴィに届いたのだろう。やりがいを見つけ、モチベーションを高める。|プロジェクトマネージャー《PM》としての言葉に、レヴィが答えてくれたことに紅子は嬉しくなる。

「どういう|魔物《メンバー》召喚したいのか、ちゃんと言ってよ? あたしもしっかりイメージするからさ。……さーて、特訓よ特訓! 練習あるのみ! ジーナ、あんたには絶対負けないからね!」

 ジーナもライカも、優しい笑みを浮かべながらレヴィを見つめている。紅子も溢れ出しそうな笑顔を極力抑えつつ、チケットを発行するために端末を取り出した。