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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#39 ゴールを決めます

 ベッドに入ってからも、紅子はプロジェクトについてずっと考えていた。

 このプロジェクトのゴールはどこなのか。

 何をもって成功とするのか。
 何を最終目標に置くべきなのか。

 今までは、この世界のこともよくわからない上、目の前の課題を片付ける事で手一杯だった。しかし、このプロジェクトのゴールについて、そろそろ明確にすべき時期が来たような気がする……紅子は考えを巡らせる。

 例えば。武力をもって『|緑の格子盤《グリーンボード》』を制圧する。

 確かに、一つのゴールではある。単純な国盗りゲームなら、それこそが最終的な目的だろう。レヴィも、本気かどうかはさておき、目標に『世界征服』を掲げていた。また、敵である『緑の格子盤』側はもちろんその意識でいる、だろう。しかし……それは本当に最良のゴールなのだろうか。

 例えば。国の運営にRedmineが有効である事を実践し、認めさせる。

 これも一つの理想的な解決方法だろう。おそらくレイラはこれを望んでいる……はず。今は敵対しているとは言え、元々は同じ志を持っていたのだ。しかし、相手にも譲れない信念があるだろう。正しい方が勝つのではない、勝った方が正しい……その理屈も、紅子は理解しているつもりだ。

 ああ、やっぱり本人の意見を聞きたい。このプロジェクトを立ち上げた張本人が、どういう思いを持っていたのかを直接聞いてみたい。紅子の中でその思いが強くなる。

 ……その張本人であるレイラについて、ジェミィから日中に聞いた不可解な話を思い出す。

『私が近くにいると、皆に危険が及ぶ』。……レイラは、姿を消す前にそれだけをジェミィに言い残したそうだ。
 確かに、大国にケンカを売ってるのだから危険なのは当然だ。しかしそれなら、レイラがそばで守っている方がよっぽど安全なはずだ。紅子はそれが腑に落ちない。
 紅子は、この世界に来た直後に読んだ|書き置き《README》の内容をまた思い出す。あれを読む限り、何でも正直に、あけすけに言いそうな印象を受けるのだが。それほど重大な事情があったのだろうか。腹心であるジェミィや、自分の娘にすら詳しい事を話せないほどの。

 紅子は頭の中で、レイラの足取りを整理する。『紅の宝庫』を率いていたレイラは、何らかの事情で一団を離れる事を余儀なくされる。レヴィにRedmineをセットアップしたレイラは姿を消し、Redmineというシステムを理解できる者――たまたまそれが、偶然あの本を手に取った私だったのだろう――がこの世界に転移されるよう策を講じる。それからライカの元を訪ねてジーナの保護を依頼し……そして、今もどこかに身を隠している……

 紅子は意を決して起き上がった。端末を手にすると、震える手で二枚のチケットを入力する。

 ……レイラに会う。
 そして。
 ……『緑の格子盤』当主、〈翠玉女帝〉エクシエラに会う。

 会えるかどうかはわからない。どれだけ魔力を消費するのかもわからない。特にエクシエラに会うのは危険も大きい。不安ばかりだ。もし、上手くいって二人に会えたとして……何をどう話せば良いのか、今は自信がない。
 しかし、このプロジェクトをゴールに導くためには、どちらも必要不可欠なプロセスである。紅子はそう感じていた。

 チケットの発行が終わった。|割当《アサイン》は…………それは、心の準備が出来てから。そう自分に言い訳し、紅子はシーツを被った。