Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]
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「…………んん?」
よく晴れた朝。いつものように端末でRedmineをチェックしていた紅子は、見慣れない表示に驚いた。残っていた眠気が吹き飛ぶ。
プロジェクト画面に、今までなかったタブが増えている。『ニュース』、『文書』、『Wiki』、『フォーラム』……確かに、これらの機能はRedmineの標準機能として組み込まれているもので、参考書にもその記載はあった。しかし、レヴィ版のRedmineには見当たらなかったので、おそらくレイラがそういう風にカスタマイズしたんだろうな、くらいにしか考えていなかった。
それが、今日になって表示されている。どういうことだろう……レヴィの魔力が上がった事で、機能が解放されたのか。それとも……いや、考えるより先に、とりあえずアクセスしてみよう。紅子は興味津々で、『ニュース』と書かれたリンクをクリックする。
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Redmineには、チケット管理機能以外にも、様々な機能が標準で搭載されている。『ニュース』もその一つだ。
『ニュース』は、主にプロジェクトのメンバーに対し、連絡事項がある時に用いられる。入力項目には、タイトルとサマリー(概要)、それから説明文があり、連絡したい内容を記載して公開する。また、記事にはファイルを添付することもできる。それから、記事に対してメンバーがコメントを書くこともできる。
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……ただ、この辺の機能、出来る事が似通ってて、どう使い分ければいいのかイマイチわかりにくいんだよね……。紅子は思案する。初心者が混乱するから使わない方がいい、なんて意見もあるし。
後々まで残すべき情報はチケットやWikiに書くべきだし、その場限りの告知なんかをするのに適した機能なのかな……と紅子は考える。プラグインの新しいバージョンが出ましたよ、とか。あと、駅前の小倉チーズ団子が美味しかったとか。あー、また食べたいな。あれホントに美味しかったんだよな……とりあえず、そんな感じの事を書き込んでみるか。
そんな事を考えながら紅子は『ニュース』の画面にアクセスし……手を止める。
そこには、すでに何件か書き込みがなされていた。
「え?」
どうやら……画面に表示されていなかっただけで、機能としては有効になっていたようだ。紅子がRedmineをセットアップしてから昨日までの出来事がいくつか投稿されている。誰が? ……考えられるのは一人しかいない。レヴィだ。おそらく自分でも無意識のうちに、思った事を投稿していたのだろう。果たして、投稿者欄に書かれているのはレヴィの名前だった。
紅子は、記事の一つを開いて読み始めた。日付は……紅子がこの世界に来た日だ。レヴィの身体にRedmineをセットアップした日。
『えすいーが来た
レヴィ が 約2ヶ月前に追加
今日、突然変な人がやってきた。よくわからないけど、あたしたちとは違う世界の人らしい。名前もこうこ? っていう変な名前。
でも、お母さんと同じで、えすいーっていうすごい力を持ってるらしい。実際に、お母さんが残したレッドマインってシステムを、あっという間に動くようにしてくれた。……あー、思い出すと恥ずかしいけど。
お母さんがいなくなってからずっと寂しかったけど、こうこが来たことで何か大きく変わる気がして、ちょっとワクワクする……』
……これ、ニュースじゃなくて日記だよね。しかもかなりプライベートチックな。いいのかなこれ。読み進めていいのかな。いや公開してるんだから読んでいいんだけど。でもこれ、鍵を掛けてるつもりで間違って公開しちゃってて後で大赤面するって感じの日記だよね。どうしようか。まあいいか。全部読んでから考えるか。
紅子は次の日記、もといニュースを開く……
「紅子ー、おはよう! もう起きてる?」
「うひゃあ!」
急に部屋に入って来たレヴィに、紅子は驚いて端末を取り落とす。
「あ、ごめん。仕事中だった? 朝ごはん出来てるよ」
「そ、そう。ありがと」
動揺を悟られないよう、紅子は出来るだけ平静を装って返事する。……やっぱり、これ以上読むのは可哀想だな。後で非表示にしておいてあげよう。