redmine-fantasy

Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

This project is maintained by 8novels

#52 ミーティングを行います

「|会議《ミーティング》!?」

 ジェミィとライカが同時に声を上げる。

「〈翠玉女帝〉と、か?」
「そうよ」
「しかし、今さら話し合いでどうにかなるとは……」
「そもそも」

 ライカの言葉を紅子が遮る。

「この『|紅の宝庫《レッドマイン》』の目的を改めて思い出して欲しいんだけど……『世界征服プロジェクト』っていう名称はさておいてさ。本質を一言で言うと、Redmineを用いた|国家運営《プロジェクト管理》を実践し、Redmineの良さを広め、皆に認めさせること。……私はこう認識してるんだけど、そこに異論はない?」
「はい」

 ジーナが頷く。

「で、その最大の障害となっているのが、『|緑の格子盤《グリーンボード》』。あっちはあっちで、別の手法で国家運営を実践してて、思想の違いからこんな争いになってる。……そういう相手に新しい事を浸透させるには、少しずつ実績を積んで、|協力者《ユーザー》を増やして、時間をかけて良さを普及していって……てのが常套手段だし、その後だったら話もしやすかったんだけど。でも、敵がこんな手段に出た以上、もう接触は避けられない」

 紅子はジェミィの顔を見る。ジェミィも小さく頷く。

「圧倒的に不利な状態だけど……でも、今の段階でも、Redmineの良さは話せばきっと伝わる。私が、認めさせる。それが出来れば、このプロジェクトは成功なんだよね」

 これが『戦争』ならば、戦力的に不利な方は、城や砦に篭って戦うのがセオリーだろう。昔プレイしたゲームの事を思い出しながら紅子は考える。
 しかし。選ぶべき道は、戦争ではない。
 そう。言うなれば、これは商談だ。稟議を通すために上司を説得するのにも似ている。いずれにしろ、思いのたけを自らの言葉で話すのだ。心を開いて、心を通わせるのだ。それならば、過去に何度も経験がある。決して不可能な事ではない。

「しかし……」

 ジェミィが反論する。

「それが出来なかったから、レイラ様は袂を分かつ事になったのでは……」
「それがね。当事者同士だと、妙な意地の張り合いになっちゃって、逆に話がこじれちゃうんだよね。私くらいの距離感の人が話せば、今度は上手く行くと思うんだ」
「確かに、そういう見方もできますが……」
「大丈夫、大丈夫。私だってね、全く関係ない案件の商談に急に呼ばれて話させられたり、さっぱり訳わからない事ばっかり言う|顧客《クライアント》の言葉を必死で通訳したり、援護射撃をお願いしてたはずの同僚に思いっきり背後から撃たれたり、いろいろ修羅場は経験してんのよ。圧倒的に不利な立場で話すのは慣れてる」
「……紅子さんの世界も、なかなかに恐ろしい所なんですね」

 ジーナが感心したように呟く。

「だから、私をエクシエラの所まで連れて行って欲しい。私の、みんなの、レイラさんの思いを言葉にして、エクシエラに届けてみせる。……この危機を打開する策は、これしかない。それに……商談相手は、キーマンをピンポイントで狙えって言うし」
「おっしゃりたい事はわかりました。しかし……」

 じっと紅子の目を見つめながら、ジェミィが問いかける。

「かなりの危険を伴います。もう一度確認しますが……勝機は、あるのですか?」
「犠牲を出さずに事を収める方法は、これ以外にないと思う。……覚悟は、出来てる」
「……わかりました。|紅子様《PM》がそこまでおっしゃるなら、私はそれに従うまでです」

 ジェミィが力強く頷く。

「紅子……」

 心配そうに見つめるレヴィの頭を、紅子は優しく撫でる。

「大丈夫。何とかしてみせる。だから、協力して」
「……うん」

 レヴィも小さく頷いた。

「……じゃ、チケット、切るよ」

 ずっと『|新規《New》』のままで置いておいた、『エクシエラとの|会議《ミーティング》』というチケット。紅子は、そのチケットのステータスを『|進行中《Assigned》』へと変更した。

 次の瞬間、新たな子チケットが四枚発生した。そしてそれらは、ライカ、ジーナ、ジェミィ、そしてレヴィに自動的に|割り当て《アサイン》される。

「……ほう」

 配布された端末を覗きこんだライカが、感心したように声を漏らす。

「なるほど。これが、チケットによる意思の疎通か」
「うん。指示はわかりやすく、かつ正確に。状況が変化した時の報告は、素早く的確に。チーム全員の意思を一つに。……私が、そしてレイラさんが、常に心がけていること」

 そう、これまで実践してきたことだ。相手が誰であろうが、やることは同じだ。

「みんなで、成功させよう。この|決戦《プロジェクト》」

 全員が、大きく頷いた。