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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#54 進捗率:20%、担当者:ジーナ

 屋敷の最上階。戦場を見渡せる位置で、ジーナは精神を集中し続ける。鉄の匂いを帯びた風がジーナの髪をなびかせ、空へと消えていく。

 広範囲にかけていた|信号衝突《コリジョン》の魔法を解除したことにより、屋敷は戦場に姿を現した。その姿を認識した敵兵たちが一気に押し寄せてくる。
 それこそがジーナの狙いである。出来る限り兵力をこちらに引きつけ、分散させる。打ち合わせ通りだ。

 *

 ジーナは、両親の顔を覚えていない。幼い頃に二人とも戦場で亡くなった、と聞かされている。
 二人とも、高い魔力を持つ魔族だったそうだ。それだけでなく、新しい知識や技術を積極的に取り入れ、平和のために利用できる日を夢に描き……そして、二人とも戦場で命を落とした。

 そんなジーナを気にかけてくれたのが、レイラだ。
 ジーナも両親に負けないほどの魔力を持っている事に、レイラは気付いていた。ジーナの素質に合っているだろうと、|魔力通信《ネットワーク》に関する文献を与えてくれたのもレイラだった。ジーナはむさぼるようにその文献を読み、魔力通信の仕組みや制御方法を身につけた。習得した魔法は、今でも自分の大きな武器になっている。
 レヴィと会ったこともある。レヴィがちょうど、今の自分と同じくらいの年の頃だ。ジーナもレヴィも、同じような能力を持っている。それは、世界を変えられるような素晴らしい能力だ。そう、レイラは語ってくれた。
 強さとは、単に魔力が大きいとか、兵力が多いとか、そういう事ではない。新しい考えを受け入れられる事。新しい技術を、自分のものに出来る事。それが、これからの強さだ。そう熱く語るレイラの姿を、ジーナは今でも鮮明に覚えている。

 ……数ヶ月前のことだ。ジーナの元に、一人の傭兵が訪ねてきた。ライカだ。
 ライカはジーナに、一通の手紙を渡す。手紙の主は、レイラ。頼み事があるという。
 久しぶりの再開に胸踊らせ、ライカとともに待ち合わせ場所に向かうジーナ。しかし、そこで見たレイラの姿に、ジーナは絶句する。

 レイラに近付く事は許してもらえなかった。しかし、遠くからでも、深くかぶるマントの隙間からでも、レイラの姿が変わり果ててしまっていたのは一目瞭然だった。

 レイラから託された言葉をライカが語る。
 体内に仕込まれてしまった|虫《ワーム》の活動を押さえ込むために、レイラはもはや動くこともままならない事。
 |可変域所有者《nonーembedded》であるジーナやレヴィへの感染を防ぐため、近付く事も出来ず、魔力通信網にも接続できない事。
 『|緑の格子盤《グリーンボード》』に反旗を翻し、『|紅の宝庫《レッドマイン》』を興したものの、レヴィや仲間を置いてきてしまった事。
 それでも、『紅の宝庫』が掲げる理想を実現するため、ジーナの力を必要としている事。
 いずれ、それを察知した『緑の格子盤』の手により、ジーナが拘束されてしまう可能性がある事。

 巻き込んでしまってすまない、しかし、どうしても力を貸してほしい……そう切に語るライカの言葉を、遠くから見守るレイラの事を、ジーナは断る事など出来なかった。レイラに恩返しがしたい。その一心で、ジーナはライカと共に旅に出た。
 『紅の宝庫』で戦うレヴィたちと合流するために。

 そして、今。ジーナは仲間とともに、レイラのおかげで身についた能力を発揮し、全力で戦っている。
 世界を変えたいと願ったレイラの思い、それを引き継いだレヴィや紅子の思いは、ジーナの思いでもある。
 みんなの力になりたい。
 ただそれだけを思い、ジーナは魔力を振り絞る。

 *

 かなりの兵が屋敷の前に集まってきた。もう、いいだろうか。
 ジーナは呪文を唱え、魔法を発動する。

「……|魔力枯渇《シン・フラッド》」

 今のジーナにできる、最強の魔法だ。
 ジーナから放たれた無数の|光の弾《パケット》が、敵陣へと降り注いで行く。
 一つ一つの|光の弾《パケット》自体には大した威力はない。しかし、次から次へと飛来する|光の弾《パケット》は、敵に着弾するたびに|魔力《リソース》を少しずつ奪っていき、やがて相手は行動不能となる。
 もちろん、敵は一時的に機能を停止しているだけだ。物理的なダメージはない。魔力の弱いものでも、何時間かすれば動けるようになるだろう。多数の敵を傷つけることなく無力化するのには最適な魔法である。

 ジーナは一息つくと、端末を確認する。自分に|割り当て《アサイン》されていたチケットのステータスが『|解決《Resolved》』に変わっている。もう十分な成果を上げたと言うことだろう。レヴィの分の魔力まで使い果たしてしまう訳にもいかないので、次は門を守るライカのサポートに回る。これも、打ち合わせ通りだ。

 ……レイラさん。あなたの分まで、全力で戦います。

 ジーナはライカの元に向かうため、階段を駆け降りていった。