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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#55 進捗率:40%、担当者:ジェミィ

 エクシエラのいる本陣を目指し、三つの影が戦場を駆け抜けていく。

 紅子、レヴィ、そしてジェミィの三人には、より強力な|信号衝突《コリジョン》の魔法がジーナによってかけられている。魔力の弱い敵兵がその存在を認識するのはかなり困難だろう。大半の敵兵が屋敷に集中し、手薄になった敵陣では、なおさら見つかる可能性は低い。そんな敵陣の中央を、ジェミィは先陣を切って真っ直ぐ進む。紅子、レヴィがその後に続く。

 背後からは、敵兵の怒声が一際大きく響いてくる。ジーナの攻撃が始まったようだ。紅子はチラリと端末を覗き、ステータスを満足気に確認してすぐポケットにしまった。ただ一心に、それぞれが自分に与えられた役割を果たすため、一行は走り続ける。

 *

 先頭を駆けるジェミィは思いを馳せる。
 レイラの姿に憧れ、レイラの親衛隊として刃を振るい、常にレイラの近くで戦いに身を投じてきた。
 そんな自分だからこそ、よく理解している。レイラが考える強さとは。レイラが掲げる理想とは。その信念を持って周りの者達を導いてきたレイラの、背中をずっと守って来た事を、ジェミィは何よりも誇りに思っている。

 数ヶ月前。レイラが突然姿を消してしまった事で、ジェミィはかなり憔悴した。自分を責めたこともある。しかし、こういう時だからこそ、レイラが帰ってくる場所を守り抜かなければならない。そうジェミィは強く決意した。
 幸いなことに、後任の|プロジェクトマネージャー《PM》である紅子は、信頼に値する人物だった。彼女を支える事で、レイラが理想とした世界に近付くことが出来るとジェミィは信じている。
 今、自分に課せられた役目は。プロジェクトを成功させるため、彼女を無事にエクシエラの元へ届ける事。
 〈紅玉の刃〉の二つ名にかけて、この任務を遂行する。ジェミィは固く誓う。

 *

「待て」

 三人の行く手に、一つの影が立ちはだかった。
 大半の敵兵に気付かれず、一気に戦場を駆け抜けてきた。しかし、この魔法が通用しない程の魔力を持った者も、もちろん『|緑の格子盤《グリーンボード》』には存在する。その敵将は、手にした剣の切っ先を迷う事なくジェミィに向けていた。

「これは……〈紅玉の刃〉ジェミィではないか。こんな所で会えるとは」

 ジェミィもその顔を知っていた。その剣の実力のことも。剣の腕だけで言えば、おそらく『緑の格子盤』でも五本の指に入るだろう。
 ジェミィは薙刀を構えると、後ろを振り返る事なく二人に言った。

「レヴィ様、紅子様。この者は私が引き受けます。どうか先へ」
「でも……」
「レヴィ。そういう|割り当て《アサイン》だったはずだよ」

 渋るレヴィを、紅子がたしなめる。

「そうですよ、レヴィ様。……あまり時間がありませんので、早く」
「……わかった。ジェミィ、気をつけてね」

 敵将の横を駆け抜ける紅子とレヴィ。その二人に向けられた刃を、ジェミィの薙刀が遮る。

「お二人の邪魔をなさらぬよう」

 鋭い眼光で睨みつけるジェミィ。敵将の動きが止まる。

「……しばらく戦場から遠ざかっていたにしては、腕は鈍っていないようだな」
「……守るべきものが、あります故」

 せめぎ合う二つの刃。薙刀に力を込めたまま、ジェミィは答える。

「その、守るべきものは。己に何をもたらす」
「……心」
「心?」
「心が真に繋がりあえる理想の世界を、本気で実現しようとする方々に、私は幸いにして巡り会えた。……ならば私は、その障壁を切り裂く為に、この刃を振るうまで」
「……悪くない」

 敵将はにやりと笑うと、薙刀を大きく弾く。ジェミィは後ろに跳び、薙刀を高く掲げる。

 ――私に、もっと強さを。
 異を唱える者を排除し、己を狭める力ではなく。
 異を唱える者も理解し、尊重し、己を広げる事の出来る力を。
 そんな理想を掲げる者を、守れる力を。

 薙刀が大きく振り降ろされた。