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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#56 進捗率:60%、担当者:ライカ

 私はずっと、戦場の中で生きてきた。
 大剣を振るい、迫り来る敵兵を打ち倒しながら、ライカは昔を思い出す。

 物心ついた時には、剣を握っていた。
 己の道は、己の剣で切り開く。ずっとそう教えられてきた。
 傷だらけの身体を引き摺り、屍を踏みつけ、それでも生き永らえてきた。

 そんな中、傭兵として参加した軍で、一人の将と出会った。
 レイラ隊長との初めての出会いである。

 彼女は、今まで会ったどの者とも違う考えを持っていた。
 圧倒的な力で敵をねじ伏せる。そんな風潮が蔓延していた国の中で、彼女の考えは違った。
 心の繋がり。情報伝達の大切さ。そのための、根本的な仕組みの変革。
 これまで誰も意識していなかった面を、彼女は重視し、そして実践していった。
 初めは、ライカには先進的すぎて全く理解が追いつかなかった。しかし、彼女が次々と生み出す画期的なアイディアと、それを実現できる技術力に、ライカは次第に魅了されていった。狭かった世界が、みるみる広がっていくような感覚。凝り固まっていた自分の中の常識が解きほぐされていくような、心地よい感覚。やがてライカも、彼女の理想とする世界を夢見るようになった。

 数ヶ月前。久しぶりに会ったレイラ隊長の変わり果てた姿に、ライカは言葉を失った。
 だが、彼女は諦めていなかった。身体を蝕まれ、細くなった腕で、彼女は誓った。必ず『|紅の宝庫《レッドマイン》』に戻り、理想を実現する。だから、それまでどうか『紅の宝庫』を守って欲しい。そう言って頭を下げる彼女の願いに、全身全霊を賭けて応える事をライカも誓った。

 さて。その思想を引き継いだ我が軍の|参謀《PM》は、この状況において、敵将と一対一で話がしたいと言う。真剣な顔で。
 非常に危険を伴う上に、話がまとまる可能性も少ない。以前の自分なら、そう考えて一笑に付していただろう。

 だが……武力で押すばかりが戦いではない。
 世の中の仕組み、そのものを変える。それこそが、真の戦いだと。
 自分はレイラからそれを教わった。

 同じ理想を追いかける、異界の|プロジェクトマネージャー《PM》。彼女になら、この物語の結末を託しても良いかもしれない。
 ならば、後は自分に与えられた役割をこなすだけだ。

 *

 敵兵の大部分は戦場に横たわっている。ジーナの魔法の成果だ。しかし、その難を逃れた比較的魔力の高い敵兵は、果敢にも屋敷の門に攻め寄せてくる。彼らの手から屋敷を守りきるのがライカの役目だ。紅子とエクシエラとの会議が終わるまで持ち堪えればよい。そうすれば、我が軍の勝ちだ。

「ライカ!」

 |大仕事《チケット》を完了させたジーナが駆け寄ってくる。ジーナは小さく深呼吸すると、すぐさま次の役割である『ライカの加勢』というチケットにかかるべく、その小さな手を組んで精神集中を始める。
 幼いけれど、頼れる仲間だ。

「うまく、いきますよね」

 精神集中を続けたまま、ジーナがライカを見上げる。

「ああ。彼女なら、何も心配いらない」
「レイラさんや、紅子さんの望んだ世界。きっと、訪れますよね」
「大丈夫だ。彼女たちを信じよう」

 ジーナの笑顔を。レイラと志を同じくする、頼れる仲間たちの笑顔を。
 レイラの望んだ世界の訪れを。
 それを報酬として、剣を振るう傭兵がいてもいいだろう。

 ライカは剣を一閃する。ジーナ目掛けて飛んできた矢が、二つに分かれて地面に落ちた。