Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]
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本陣の中央には、一人の女性が座っていた。
側には誰もいない。広い空間に、ただ一人。
紅子はその女性にゆっくりと近付いていく。
「はじめまして、〈翠玉女帝〉エクシエラさん」
その女性……エクシエラは、面倒そうに顔を上げた。
「……戦場には似合わない格好だし、動きもシロートだし、しかも丸腰だし。えらく場違いなのがやって来たわね」
嘲笑うような笑みを浮かべ、エクシエラは紅子を睨みつける。
「で、ここまで一人でやってきてどうしようというの? 降伏しに来たの?」
「いいえ」
紅子は小さく首を横に振る。
「違うの? じゃ、あたしと刺し違えるつもり? ……舐められたもんね。あたしが『|緑の格子盤《グリーンボード》』当主と知って……」
「いいえ」
紅子はエクシエラの目を真っ直ぐに見つめる。
「『|紅の宝庫《レッドマイン》』の|プロジェクトマネージャー《PM》として、あなたと|会議《ミーティング》をしに来ました」
「……会議?」
「そうです。この戦いの意味について。そして、この世界の今後について。……話し合えば、わかるんじゃないかと思って」
長い長い沈黙。
しばらくして。
エクシエラの高笑いが、辺りに響く。
「あーっはっはっは!」
ひとしきり笑ったあと、エクシエラは言葉を続けた。
「面白いわね、それ。あなた、本気で言ってるの?」
「本気ですよ、私は」
「話し合いで解決できるんなら、こんな戦いにはなっていないでしょう?」
「……本当に、そうでしょうか」
エクシエラの顔から笑みが消える。
「戦わなければならない理由なんて、本当は存在しない。……エクシエラさんも、実は気付いてらっしゃるんじゃないんですか?」
「……どういうこと?」
「これ以上の戦いは、無意味です。だから、やめませんか。戦いなんて」
「なんだ、やっぱり降伏するんじゃないの。勝てそうにないから、そんな事言うんでしょ? 『|紅の宝庫《あなたたち》』は、戦いに負けたのよ」
「違います。……どちらが勝ったとか、どちらの勢力が武力に勝るとか、そう言う話ではないと思うんです」
紅子は一歩前に歩み出る。エクシエラに届くように、はっきり、堂々と、お腹に力を込めて。プレゼンの練習をした時を思い出して、紅子は話し続ける。
「レイラさんはただ、気付いてほしかっただけなんです。Redmineというシステムの可能性に。より効率よく|国《プロジェクト》が運営でき、より心が繋がり合える、新しい仕組みに。ただ、それだけなんです。……違うでしょうか」
「……そんな事、わかってるわよ」
エクシエラの眉が釣り上がる。怒ったように吐き捨てる。
「あなたより、はるかに付き合い長いのよ。レイラ姉さまとは。何を考えてるかなんて、すぐにわかるわ」
「じゃあ……」
「でもね。こっちだって、曲げられない事もあるのよ。この国のやり方が正しいって、今まで続けてきたやり方が正しいって。だから、力ずくでも示さなければいけないのよ」
「……私は、こことは違う世界からやって来ました」
「……?」
予想していなかった言葉に、エクシエラは首を傾げる。
「その世界では、目まぐるしい速さで技術が進歩しています。新しい技術が毎日生まれ、さらに新しい技術を取り入れ、常に進化を続けています」
「だから、新しい事に目を向けるべきだ。……とでも言うのかしら?」
「いいえ。新しい事が常に正しいというわけではありません。しかし、価値のあるものはたくさんあります。世界がもっとよくなるものが、たくさんあります。そういったものから目をそらさずに、向上する事を忘れないでほしいんです。……特に、|魔族《ヒト》の上に立つリーダーには、その気持ちを常に持っていてほしいんです」
「……」
エクシエラは沈黙する。じっと紅子を見つめている。
「どうでしょうか、エクシエラさん」
「……なかなか、面白いじゃない」
エクシエラの表情に笑みが戻った。敵意も消えてきた……ように、紅子には見える。
「内容も面白いし、話し方も堂々としてる。私の部下にレクチャーして欲しいくらいだわ」
「光栄です」
「……聞いてあげるわ。続けて」
エクシエラは、紅子に興味を持ち始めたようだ。紅子は、一呼吸置いてまた話し出す。