Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]
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「……私のいた世界は」
紅子は、自分にも言い聞かせるように、ゆっくりと噛みしめるように話を続ける。
「この世界より、もっと文明が栄え、もっと技術が進歩した世界です。魔法は使えませんが、優れた科学技術によって、いろんなことが実現できる世界です。だけど……それでも、争いは絶えません。今でも、たくさんの武器が開発され、たくさんの人が亡くなっています」
「それが、性分だからじゃないの? ヒトは、根本的に争いが大好きなのよ」
「そう、なのかもしれません。だけど、その理由のほとんどが、単なる心のすれ違いなんです。相手の心がわからない恐怖。それに怯えて、争いを繰り返すんです」
エクシエラは、黙って話を聞いている。
「それは、人であっても、国であっても、同じ事だと思うんです。どんなに憎しみ合っていても、いざ心を開いて話し合ってみれば、実はちょっとした誤解だったかもしれない。違う方向を向いているように見えても、実は心の根っこでは同じ事を考えているかもしれない。その事に気付かずに、争い続けるのは、とても悲しい事です」
紅子はエクシエラの顔を見つめる。エクシエラは目を閉じたままだ。
「相手の事を理解する。心を通じ合わせる。その努力は、決して怠ってはならないんです。今の仕組みでそれが難しいなら、その仕組みから変えていけばいいんです。知恵と技術があれば、わかり合いたいという強い意志があれば、決して不可能な事じゃない。……私は、そう信じています」
そうだ。元の世界で仕事に追われながらも、こちらの世界でプロジェクトマネジメントに追われながらも、紅子はずっとこの事を考えていた。それを今、素直な気持ちで言葉に出来た。
「Redmineという|仕組み《システム》と、お互いをわかり合う努力。その両方で、理想の世界に近付けましょう。もっともっとたくさんの人と、心が繋がりあえる世界にしましょう。もちろん私も協力します。あなたや、レイラさん、そして皆の力を合わせれば、きっと実現出来ますよ」
長い長い沈黙。
エクシエラは、じっと考え込んでいる。
どれくらいの時間が経過しただろうか。エクシエラが、口を開いた。
「……名前」
「えっ?」
「あなたの、名前。まだ、聞いてなかったわね」
「あ……そうね。ごめんなさい」
紅子はポケットから名刺を取り出し、エクシエラに手渡した。
「|藤倉《ふじくら》|紅子《こうこ》です。……異世界の、美人SEです」
「SE……」
名刺をしげしげと眺めるエクシエラ。……『美人』の部分は、受け入れてくれたのか、ただスルーされただけなのか。
「あなたは……」
「よく、ありません」
エクシエラが何か言いかけた、その時。もう一つの声が響いた。