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Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]

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#60 継続不可能 《Rejected》

 不意に後ろから届いた別の声に、紅子は振り向く。
 そこには、いつの間にか小柄な少女が立っていた。細い腕で握っているのは……銃、だろうか。彼女は、ただただ憎しみに満ちた目で、紅子にその銃のようなものを向ける。

「オデッサ!?」

 エクシエラが驚きの声を上げる。

「あなた、どうしてここに?」
「よく、ありませんよ」

 オデッサと呼ばれた少女の視線は、真っすぐ紅子だけに向けられている。溢れ出る敵意を隠そうともしない。エクシエラの声も届いていないようだ。

「せっかく、上手くいっていたのに。どうして邪魔をするんですか」
「どうしたのよ、オデッサ。普段は冷静なあなたが……」
「しっかりしてくださいエクシエラ様!! ……こんな妄言に、耳を貸す必要などありません」

 かつてない静寂と緊迫感が一帯を支配する。紅子はもちろん、エクシエラも微動だに出来ない。紅子の背中を冷や汗が伝う。
 混乱する頭を振り絞って紅子は考える。……このオデッサという人物は、エクシエラの側近であろう。そして、何より『|緑の格子盤《グリーンボード》』を愛し、考えの異なるものを排除してきた。……おそらく、ありとあらゆる手段を用いて。
 しばらくして、またもオデッサがゆっくりと口を開く。

「せっかく、レイラを排除出来たのに。邪魔者が消えたと思ってたのに。似たような事を言う者が、またこの国の邪魔をする。……でも、私たちは、あなたの考えを受け入れません。この国には、この国のやり方があるのです」
「オデッサ、ひょっとして、あなた……」

 エクシエラは何かに感付いたようだ。レイラが姿を消した、その理由に。しかしオデッサは、その言葉に答えずになおも続ける。

「エクシエラ様のやり方が、最も優れているんです。我が国のやり方が絶対なんです。他の手法? そんなもの、一考の価値もありません」

 オデッサは銃を構え直した。

「はっきり言って、いい迷惑です」

 紅子の全身から血の気が引いていく。ガクガクと膝が震え出す。

 そんな。
 せっかく、わかりあえるきっかけが出来たかもしれないのに。
 心が通じかけた、そう思ったのに。
 ……こんな形で、プロジェクトは終わってしまうのか。

「消えてください」
「オデッサ!」
「紅子!」

 レヴィが本陣に飛び込む。エクシエラが叫ぶ。オデッサが引鉄を引く。
 それらは、ほぼ同時だった。

 オデッサが放った一条の光は。
 あっけないほど簡単に、紅子の身体を貫いた。

 驚きに満ちたエクシエラの瞳と。
 決意に満ちたオデッサの瞳と。
 声にならないレヴィの悲鳴と。
 状況に理解が追いつかない紅子と。

 全てが眩い光に包まれて。

 ……やがて、全てが暗転する。