Redmineで始める異世界人心掌握術 [異世界ファンタジー/長編/完結済]
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自宅に戻った紅子は、プログレスバーが進むのをじっと見つめている。
とりあえず、買ってきた技術書に書いてある通りセットアップをしてみよう。紅子はそう思い立ち、愛用のMacBookにRedmineをインストールしている。
ちなみにその技術書では、Bitnamiというオールインワンパッケージでのインストールが推奨されていたので、素直に従っている。慣れてきたら、個別にインストールしてみたり、Dockerを使用してみたりするのもいいかもしれない。
やがてインストールが完了する。自動で起動したWebブラウザの、中央に大きく置かれたリンクをクリックし、先ほど設定したアカウントとパスワードを入力しログインする。
とてもシンプルな画面だ。初めて見る人は、ここから何が出来るのか想像するのは難しいだろう。今までとやり方と違う、と不満を述べる人もきっといるだろう。この会社には合わない、そんな難癖をつける人だっているに違いない。
でも、時代は急速に変わっていく。古い手法に固執していては時代に取り残される。真意がより正確に伝わるような、新しい仕組みを取り入れていかなければ、時代に取り残されてしまう。
しかし。だからといって、それを強制するのもまた間違っている。それこそ真意が伝わらず、心がすれ違い、お互いに疲弊していく。道具に使われているようなものだ。
だから、お互いを尊重しつつ、かつより良い方向に向かうよう、徐々に人々の意識を変えていかなければならない。
その橋渡し、私に出来るだろうか……
その時。
紅子は、既にチケットが一つだけ登録されている事に気がついた。
サンプルのチケットだろうか。そんな事は書いてなかったけどな……そう思いながら、紅子は起票者の名前を確認する。知らない名前だ。……知らないはず、なのに。何故か紅子の目に涙が溢れてくる。
慌てて紅子は内容を確認する。
『サポート #1
紅子の世界でもRedmineを広めてください
ステータス 新規
優先度 通常
担当者 藤倉紅子
説明
紅子、今までありがとう。
急に呼んじゃってごめんね。でも、紅子は立派なプロジェクトマネージャーでした。
来てくれたのが、紅子で良かった。本当にありがとう。
こっちの世界でも、Redmineを広めてみせるよ。
何年かかったとしても、どんな困難があっても、きっと受け入れてもらえる日が来るから。
だから、紅子の暮らす世界でも、Redmineを広めてください。』
その下に、コメントが書かれている。
『紅子、ありがとう。次に会える時までには、きっとお母さんに負けないくらい立派な魔族になってるから。だから、紅子も頑張ってください。』
涙が止まらない。
そうだ。私はきっと、とっても貴重な体験をしていたのだ。
この仲間たちと一緒に、こことは別の世界でプロジェクトを運営し、冒険し、困難に立ち向かっていたのだ。
それは、夢だったのかもしれない。現実の出来事ではなかったのかもしれない。
だけど、その体験は、決して幻ではない。私の心の奥底に、深く深く刻み込まれている。
この世界でも、きっとうまくやっていける。
なんせ私は、異世界でプロジェクトマネジメントやってたんだよ?
それに比べれば、何と簡単なことか。
人は、きっとわかりあえる。
紅子は涙を拭うと、チケットのステータスを『|進行中《Assigned》』に変更した。
受け取ったよ、チケット。私、頑張るから。
そっちの世界でも、頑張ってね。