無限ループの夏(3)
今日は朝からあいにくの雨だった。
昨晩は、例のプログラムが書かれた紙切れをベッドの中でじっと眺めていたが、結局何も思いつかないまま、いつの間にか眠りに落ちていた。やはり、この手の謎解きは樹里先輩に任せるべきか。
それなら私は行動力で勝負と、今日も時間の許す限り情報を集めてみたが、やはり五件目の被害は出ていないようだ。これで終わりなのか、鳴りを潜めているだけなのか。
いや、別の学校で犯行に及んでいる可能性だってある。他校の知り合いをあたってみようか……と、そう考えていた時。
不意に、スマートフォンからの通知音。
Slackアプリからだった。昨晩、英語に悪戦苦闘しながら設定したアプリ。
中身は、樹里先輩からのメッセージだ。
『情報処理部へ』
この上なくシンプルで爽快なメッセージである。絵文字もない。頭の痛くなるような略語もない。本題と関係のない余計な文もない。樹里先輩のメッセージはとても気持ち良い。
『すぐ行きます』
私も簡潔に返信し、慌てて席を立った。
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「水色、ピンク、黒、白。さて、今日は何色?」
「?」
その会話は、絵子先輩からの上級者向けクイズから始まった。
「だから、下着の色よ。月曜からこの順に着けたとしたら、金曜日は何色の下着にするのか、って話よ」
「はあ」
「私は、クリームイエローとかいいと思うんだけどな。色合い的に」
「はあ」
「奈乃ちゃんだったら、何色にする?」
「……また白でも、いいんじゃないでしょうか」
「わかってないなー、奈乃ちゃんは。女子力低くない?」
「盗まれた下着の色が、事件に関係あるんですか?」
私は樹里先輩に問いかけた。
「いや、全く関係ない」
関係ないんかい。……うん、今のツッコミは我ながら早かった。
いつか、声に出してツッコめる間柄になれる日が来るのだろうか。なれたらいいな、とちょっと思う。
「関係あるとすれば、犯行の順番だな」
「順番?」
ということは。
「樹里先輩、わかったんですか? この事件の謎が」
「ああ、少なくとも、一つの納得いく答えは見つかった」
そう言うと樹里先輩は軽やかに立ち上がった。上機嫌そうだ。
「ただ、一つ約束してほしい。これから私の用意した答えを話すが……最後まで聞いても怒らないでほしい。もちろん、誰に対しても、だ。いいだろうか」
それは、話を聞いてみないことにはわからないが……でも、わざわざ樹里先輩がこう前置きするのには、それなりの考えがあってのことだろう。
私は深く頷いた。
「ありがとう。では……無限ループのソースコードが示すものは何か。次のターゲットは存在するのか。するとしたら、それは誰か。そして、犯人は誰か」
樹里先輩はそう言うと、またもや顔を一気に近づけてきた。
その距離、約二十センチ。
「さて、真実を定義しようじゃないか」
ウインクを一つ残し、颯爽と歩き出す樹里先輩。
……意外とノリノリだな、この人。