科学館

広い館内は、朝のひんやりした空気に満たされ、静まり返っている。まるで海の中にいるようだ、と|真潮《ましお》は思う。

やがて、目覚めた展示物達の動作音が館内に響く。

は差し込まれる朝陽を見上げる。

もちろん窓ガラスはすべてはめ殺しだ。だけど、もし仮に、すべての窓を開け放ったとしたら、館内はむせかえるように濃密な潮風に包まれることだろう。 海と密接に関わったこの街で、

海の科学館『ハイドレラ』。真潮の職場だ。

母なる海を小さく切り取って並べたような展示物がいくつも並んでいる。

開館前の点検

ある展示物の前で足を止める。 多くの人が、おそらく一度は見たことがあるだろう。二本の糸でぶら下げられた鉄の玉が五つ並んでおり、玉の一つを持ち上げて離すと、ぶつかった反動で反対側の玉の一つが弾かれるという、あれだ。ちなみに、正式名称は『ニュートンのゆりかご』というそうだ。科学館においては定番の展示物だろう。中華料理屋なら餃子くらいのポジションか。

その展示物を、じっと見ている少女がいる。真潮は不意にその子のことを思い出す。 おそらく8歳くらいだろうか。 まあ……お世辞にも魅力的とは言い難いかも知れないが、それでも、小さな子どもが好きそうな展示物はいくつもある。CGで作られた魚達が泳ぐバーチャルの大型水槽、 な展示物があるにも

いつしか真潮は、彼女のことが気になっていた。なぜあんなに

彼女は、果たして今日も来るだろうか。