さんしまいじんじゃ!

 JR福井駅から徒歩六分。
 |北の庄《きたのしょう》城の跡地に建立された、戦国武将・|柴田勝家《しばたかついえ》を主祭神とする柴田神社。
 その境内社として、三姉妹神社はこじんまりと建てられている。

「あー、ヒマねー。相変わらず」
「私ら、なんでここに祀られてんのかねー」
「いい男がじゃんじゃん参拝に来ればいいのにね」

 戦国時代を生き、後世に名を残した三姉妹。茶々《ちゃちゃ》、初《はつ》、江《ごう》。
 父は近江の戦国武将、|浅井長政《あざいながまさ》。母は織田信長の妹、お市の方。
 母の柴田勝家との再婚により、北ノ庄城、今の福井県福井市に移り住む。
 その後いろいろあって今に至る。

「私らも、日本の歴史上ではそこそこメジャーなんだけどねー」
「あー、茶々お姉ちゃんは特にそうよねー」
「やっぱ、豊臣秀吉の側室、豊臣秀頼のお母さんってかなりアドバンテージあると思うよ」
「んー、まあ、そうかな」
「今年の大河でもイイ役もらってんじゃん。茶々お姉ちゃんだけ」
「それ言ったら、江ちゃんなんか主役になったじゃん。五年くらい前だっけ? いいよなー。私だけイマイチ知名度低いのよねー」
「は、初だって、頑張ったと思うわよ」
「なに半笑いで言ってんのよ。姉とはいえ、とんだ無礼者だわ」
「でもでも、初お姉ちゃんが一番福井県に縁が深いんだよねっ」
「おー、よくぞ言った江ちゃんよ。もっとガツンと言ってやってよ」
「旦那さんの|京極高次《きょうごくたかつぐ》さんは小浜藩の藩主だし。お墓だって小浜市の|常高寺《じょうこうじ》にあるし。福井リスペクトだね」
「良いこと言うねー。小浜名物くずまんじゅうをあげるわ」
「わーい。ありがとー。福井の夏はやっぱりこれだよね」
「そうよ。私が一番福井に貢献してるのよ。越前時代行列だって、私を先頭にすべきだわ。AKBとかが私に扮するべきだわ」
「ほんと、致命的に知名度がないのが悔やまれるところよね」
「……茶々姉さん。大坂城ごと燃やすわよ」
「致命的に知名度がないって、上手いこと言うねー、茶々お姉ちゃん」
「……あんたも一緒に燃える?」

 *

「で、大河の話に戻るけど。戦国時代がテーマになると、毎回私たちもそれなりにクローズアップされるよね」
「ま、三人の天下人に深く関わってるからね」
「そ。で、その度に、福井県は一生懸命アピールしてるけどね。江の時なんか特に」
「そりゃ、観光客を何としても呼ばなきゃいけないからねー。死活問題だから」
「ほんと、江はドラマの主人公の経歴としては申し分なかったんだけどね……」
「織田信長の姪。豊臣秀吉の甥、羽柴秀勝の妻。その後、徳川秀忠の妻、徳川家光の母。ほんと、ドラマチックな経歴なんだけどね……」
「ちょっと。なんでさっきから『残念だったわね』みたいな口調になってんのよ」
「でも実際、なんか、パッとしなかったよね……」
「……まあ、歴史の重要な場面でバンバン口出したりしてたよねー。さすがにあんな事しなかったけど」
「ちょーっと無理があったかなー」
「……あ、そう言えばさ。福井県は今、|由利公正《ゆりきみまさ》を主人公にするべく誘致活動してるらしいわよ」
「誰それ?」
「今でいう福井市出身の、明治維新の立役者なんだって。初代東京府知事を務めたり、いろいろ活躍したらしいわ」
「へー。なかなかやるじゃん」
「あと、三岡へっついを考案したんだって」
「なんじゃそりゃ。あとでググってみるわ」

 *

「あ、江と言えばさー。最近流行ってるゲームあるらしいねー」
「話の展開が強引だねー。江だけに」
「いや、振り方としては合格点じゃない? 江だけに」
「人の名前で遊ばないでよ、お姉ちゃんたち」
「なんかさ、モンスターとかいうのがこの境内でも出るんだって」
「何それ。幽霊みたいなもん?」
「ま、落城した時の亡霊はわんさか出そうだけどね。そうじゃなくて、なんか動物っぽいというか……」
「あー、聞いたことある。捕まえて捕虜にするんだよね」
「え、合戦してんの。この神聖な境内で」
「合戦とはちょっと違うけど……ま、境内では遠慮して欲しいのは確かよね」
「全くだわ。ボール投げる前に賽銭投げろっつーの」
「でも、理由はどうあれ、地方都市にも活気が出るのはいいことなんじゃない?」
「あー、そういえば、福井駅前も活気付いたわよねー。特に今年。でっかいビル建ってさー」
「祭神である私たちに感謝して欲しいわね」
「私らはお父さんのおまけみたいなもんだけどね」
「えー。やっぱり美人三姉妹の方が絵になるし、ありがたいんじゃないのー。今年は私らがセンターに立ってみない?」
「でも、主祭神って結構大変らしいよ。年中行事もいっぱいあるし。しょーもない願い事頼まれるし」
「あー、そりゃ面倒そうね」
「やだやだ。隅っこで愛想振りまいてる方が性に合ってるわ」
「だよねー」

 *

「そう言えば。お守りに私ら三姉妹が描いてあるんだけどさ。けっこう可愛く描いてもらってんのよ。嬉しくない?」
「うん。けっこう萌え系。わかってんじゃん、って感じよね」
「本物の美貌をお見せできないのが残念だけどねー」
「美貌って言うけどさ。そもそも、私ら今いくつなの?」
「あと、あたし達の年齢差ってどのくらいなんだろ」
「えーとね。私、茶々が1569年生まれ。で、初が1570年、江が1573年ってWikipediaに書いてあるわ。ま、諸説あるらしいけど」
「へー。なんか、思ったより近いのね、年齢」
「じゃ、私が16歳、初が15歳、江が12歳の設定でどうかな」
「ちょっと設定年齢低すぎない?」
「いーや、こういうのの読者って基本ロリコンよ。特に私は、これ以上上げたら一発アウトよ。守備範囲外とか言われちゃうもの」
「あ、あとね。江ちゃんは11歳で結婚したらしいから、あんただけ人妻よ」
「えええっ! よりによってあたしだけ?」
「あーあ、ファンがだいぶ減ったわ。可哀想に」
「いーやーだー。もうちょっと下げようよー。あたし、10歳でいいから。ねえー」
「いや、面白いからこれでいこう」
「あら、こっちから人妻の香りが……」
「うえーん。お姉ちゃんたちの意地悪ー」

 三姉妹が語る夜は更けていく。

 *

 キャスト

 茶々
 長女。16歳(の設定)。またの名を淀殿。豊臣秀吉の側室、豊臣秀頼の母。享年47。

 初
 次女。15歳(の設定)。またの名を常高院。小浜藩主京極高次の正室。享年64。

 江
 三女。12歳(の設定)。またの名を崇源院。徳川三代将軍家光の母。享年54。