2-2 藤沢那子、張籠杏の特訓に付き合う

2-3 天谷瑞希、飴田瑶に提案する

「確実にクロよ」  飴田瑶《あめだよう》は断言した。

 放課後の敦賀高校生徒会室。部屋には、生徒会長である私――天谷瑞希《あまやみずき》と、友人である瑶の二人だけだ。ちなみに瑶は生徒会とは何の関係もない。副会長の座を強く勧めたこともあるのだが、性に合わないとの理由でフラれてしまった。その割には、居心地がいいのか良く遊びに来る。

「何か聞き出せたのか?」 「何も。けど、確実にクロ」

 昨年末の山泉地区の出来事。ほんの一時だけの雪。  私の中では、ちょっと奇妙な出来事があった、程度のものだった。実際、始めに話を持ちかける前も持ちかけた後も、私はその存在をほぼ忘れていたくらいだ。  ただ瑶の方は、大きな異変と捉え、独自に色々調査していてくれたらしい。本人なりに思い当たることがあったのであろう。その結果、次の論法が成り立つそうだ。

 まず、彼女の従姉妹である技術者は異変に関与している。これは間違いない。  また、本人は「雪」の原因について人工降雪機の誤作動と説明しているが、本当の理由を隠しているのも間違いない。  しかし、その当人にいくら探りを入れたところで、これ以上の事態の進展は望めない。  ゆえに、回り道でも別方面から調査し、当人に辿り着くしかない。

 との報告を、苦渋に充ち満ちた顔で伝えてきた。  よほど悔しいのだろう。自分の詰問を軽くあしらわれたことに。答えのありかは見えているのに手が届かないことに。

 ちなみに瑶、歯に衣着せぬというか、辛辣なというか、相手の急所をピンポイントでえぐるような物言いで有名であり、敦高《とんこう》一の毒舌との異名を持ち、一部男子に熱烈な人気を博している。その瑶をして「調子が出ない」と言わしめる相手、なかなかの強者のようだ。

「――いくつか、腑に落ちない点がある」  思いついた疑問点を瑶にぶつけてみる。生徒会室の備品を腹いせに壊されるのを防ぐために気を引く、という意味合いも持つ。 「まず。人工降雪機、という苦しい答えではあるが、その《《本部》》としては、自分たちの仕業である、と認めていることになるわけだ。知らぬ存ぜぬで通してもいいはずなのに」  わざわざそういう発表をするメリットとはなんだろう。 「――事を大きくしたくないから」  間髪入れず、ただしぶっきらぼうな口調で、瑶が意見を口にする。 「それくらい厄介な事件を隠している」

 まあ、順当にいくと、そう考えるのが妥当だろう。  自分たちの仕業と認めることで、「《《あの組織》》ならしょうがない」と納得する市民は一定数いる。それ以上の追及の手を緩めることには成功するだろう。

「では。そこまでして隠したいこと。何が考えられるだろうか」 「そこは何が出てきてもおかしくないからね」  瑶が腕組みし天を仰ぐ。 「現時点では、どんな可能性も考えられるわ。異世界から使い魔を呼び出そうとして失敗した、とか。宇宙人、未来人、超能力者が一箇所に集まって大騒ぎしたとか」 「荒唐無稽な話だ」  そう。ありえない話だ。ただ―― 「――他の街、ならな」

《《この街は、他の街とは異なる秩序の元に動いている》》。

 それを知ったのは、そんなに遠い昔ではない。  小さな頃は、自分の歩いていける程度の狭い範囲こそが世界の全てであり、そこで起こる出来事こそが常識である。  しかし、成長し行動範囲が広がるにつれ、今までの外の世界には外の世界の常識がある、ということが徐々に理解できてくる。今まで常識と思っていたものが完全否定されることもあるわけだ。  ただ、どちらが良いとか悪いとか、それを論じるつもりはない。たまたま私の生まれ育った街では、これが常識であっただけのこと。

「――ひとつ、提案がある」  私はそう切り出した。それは、友人への手助けだったのか、自分の興味本位だったのか。

「同級生の中に、あの辺りに住んでいる者がいる」  はたまた、この街に近づく危機への警鐘が聞こえていたのか。

「――話を聞いてみようかと思うのだが」