3-1 三上尚子、説明する

3-2 飴田瑶、チーズタルトで怒りを収める

「っどぉおぉっなっってんのぉよぉおっ!」  皿の上に鎮座するチーズタルトにフォークを突き刺しながら、私――飴田瑶《あめだよう》は吠えた。

「何語?今の」 「日本語で『激しい怒り』って意味よ!」

 向かいの席の友人、天谷瑞希《あまやみずき》が呆れ顔でこちらを見るのも気にせず、チーズタルトを頬張る。あ、ほんとにおいしい。少し怒りが収まっていく。  ここは、敦賀高校からほど近い、敦賀市野神の住宅街にあるケーキ屋さん「ホームスイートホーム」。最近出来たばかりのこの店は、私や瑞希のお気に入りの場所の一つに加わった。

 私の怒りの原因は、従姉妹であり研究施設「崑崙《こんろん》」の主任技術者である三上尚子《みかみなおこ》にある。今年に入ってからほぼずっと彼女に怒りを覚えている、と言っても過言ではない。  年末に起きた怪事件の件で最初に彼女と話したのは、年明け早々のことだ。その日以降に判明した事柄――動く雪山や雷、瑞希の手のひらで元気になった小鳥――について改めて色々探りを入れかったのだが、全く連絡が取れずにいた。ようやく話ができたのは、それから一ヶ月も経ってからだ。

「そうカッカせずに、ほら、私のアップルティーも美味いぞ?」 「だって、ホントにあの人はもう……あ、おいしい」

 尚子さんにしつこく食い下がることにより渋々語った、昨年末の事故――彼女は頑なに「出来事」と言っていたが――の概要はこうだ。

 圧力センサーが、敦賀市南部に伸びた循環器内圧力の異常な上昇を検知する。  同時に、中央制御装置の連鎖的な異常発生により、一時的に制御不能な状態に陥る。  しかし、各地に設置された緊急ベント(緊急排出)装置のうち、山泉地区の装置が正常に作動。  フィルタを通して無害化した状態で、エネルギー体のベントに成功。時刻は不明だが、事故発生日の深夜から未明にかけての間と想定される。  翌朝、予備系統への切り替えにより回復した監視機能により、圧力が正常値に戻っていることを確認。

――とのこと。事実かどうか未確認な部分もあるが、少なくとも尚子さんの見解はこうらしい。  つまり、瑞希やあの二人の同級生――藤沢《ふじさわ》さん、張籠《はりかご》さんと言ったか――が見た白い物質は、無害化されて緊急排出されたエネルギー体、だそうだ。簡単に納得できる話ではなく、疑問も残るが、その場では渋々同意するしかなかった。対抗できる程の知識のない自分が悔しい。  ただ、対外的には「人工降雪機の誤作動」というお粗末な説明を今後も続けるそうだ。全く、何なんだろうねあの隠蔽《いんぺい》体質。個人の問題か、組織の問題か。

 しかし、動く雪山と正体不明の雷について話した時は、笑顔が一瞬引きつり、考え込むようなそぶりを見せた。何か思い当たる節があるのかも知れないが、それ以上は表情からは読み取ることができなかった。その後すぐにいつもの人を食ったような笑顔に戻り、敦賀って怖いところねー、と他人事のようにいけしゃあしゃあと言ってのけた。

「あー、思い出すだけでもイライラする!」 「瑶、心の声が言葉に出てるぞ。ほら、ロールケーキ」 「もう、あの人はホントに人をバカにして……あ、おいしい」

 唯一の救いは、改めて調査し、何かしらの対策を取る、と明言してくれたこと。何か思うことがあるのはどうやら確かなようだ。私としては、その言葉を信じるしかない。  どんな対策を取るかまでは全く想像できないところに一抹の不安が残るが。